本研究は、「科学」が「食」に介入するようになった歴史的現象を、ドイツにおける獣医学の台頭と食肉検査体制の成立を関連付けながら明らかにしたものである。19世紀半ばまでの検査は、医学の監視のもと肉屋が行うのが慣例となっており、消費者が自ら食中毒から身を守ることが期待されていた。実施する自治体の間にも温度差があり、規則も全国的に統一されていなかった。ところが、人獣共通感染症を危惧するようになると、状況は一変する。獣医学者が専門家集団として影響力を持つようになると、肉屋・人医・消費者を排除することで、公共と場を中心とする検査体制が1880年代に全国的に確立し、その後、世界に輸出されていった。
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