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2015 年度 実施状況報告書

近現代イギリスにおける身体観・疾病観・死生観

研究課題

研究課題/領域番号 26770261
研究機関清泉女子大学

研究代表者

高林 陽展  清泉女子大学, 文学部, 講師 (30531298)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2018-03-31
キーワード近代イギリス / 身体観 / 疾病観 / 体温計 / 医療機器
研究実績の概要

本研究の目的は、19世紀後半から20世紀前半のイギリスにおける身体観・疾病観・死生観の変化を分析することである。この時期のイギリスでは、コレラや結核といった感染症の死亡率が低下し、社会の広い層で相対的な健康が実感されつつあった。その結果、人々は、以前は気にしなかった微細な身体の失調を問題視するようになった。また、感染症ではなく、生活習慣病や慢性疾患へと関心を寄せていった。その具体的な事例として、本研究では、体温計の利用法について検討を進めてきた。体温計は1870年代に携帯できる小型商品が実用化され、一般家庭にも広がりを見せた。これによって、人々は日々の体調の変化を自ら観察できるようになったのである。この点に関する、2015年度の主たる研究成果は、2015年8-9月と2016年2-3月に現地調査を行い、その調査結果をもって、2016年医療の社会史学会(Society for Social History of Medicine)大会の口頭発表に応募し、採択となったことである。現地調査においては、ウェルカム医学史図書館、大英図書館、ハックニー史料館、北ヨーク史料館、ブーツ史料部門などで各種一次史料を収集した。特に重要な一次史料としては、ハックニー史料館所蔵の医学機器製造会社キャセラの発注台帳を入手した点である。そこで得られた体温計購入者のデータを基に、北ヨーク史料館では利用者の実態分析に踏み込むことができた。また、イギリス最大の医薬品小売店であるブーツの史料部門では、小売店の体温計販売戦略を検討した。以上によって、製造業者、小売店、利用者が織りなす、健康維持の力学が徐々に明らかとなってきた。以上で述べたような、近代ヨーロッパの健康意識にかかわる歴史学的研究は乏しく、その意義を強調することができるだろう。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の目的は、19世紀後半から20世紀前半のイギリスにおける身体観・疾病観・死生観の変化を分析することであるが、2015年度においては、現地調査や文献調査を通じて、体温計の利用法という具体的な検討事例を得ることができた。体温計の利用は、人間身体の異常を日常的に個人が感知するための重要な手段であり、近代的な身体観と疾病観の根幹に位置するものである。この検討事例を得て、本研究は次のステップへと進むことが可能となった。また、2015年8-9月と2016年2-3月に実施された現地調査では、特にハックニー史料館、北ヨーク史料館、ブーツ史料部門での一次史料が行われ、実証的な議論を行うための基盤が確立された。ハックニー史料館では、医学機器製造会社キャセラによる体温計製造の実態について検討し、体温計購入者のデータから利用者像の描出にいたった。また、体温計購入者の意図や利用実践についてはさらなる調査を進め、ヨークシャーに所在した私立学校グレート・アイトン校の校長ハーバート・デニスが大量購入者であったことから、この学校とデニスに関する一次史料を北ヨーク史料館で確認した。そこからは、第一次世界大戦時のスペイン風邪(インフルエンザ)が背景となっていたことを確認することができた。また、イギリス最大の医薬品小売店であるブーツの史料部門も訪問し、体温計販売戦略について小売店の時点で検討した。ここでは、スペイン風邪への罹患を気にする消費者に対する小売店のマーケティングが明らかとなった。以上によって、製造業者、小売店、利用者が織りなす、健康維持の力学が明らかとなった。今後は、この研究成果を国際学会にて発表し、さらに国際学会の雑誌への投稿をめざしてゆきたい。

今後の研究の推進方策

2015年度において、本研究では、文献調査と現地での一次史料調査に注力し、その結果、十分な一次史料を確保することができた。そのため、2016年度以降は、当初の研究計画に沿って、研究成果の取りまとめと発表へと移行してゆきたい。まず、既に予定されている点から触れると、2016年医療の社会史学会(Society for Social History of Medicine)大会の口頭発表に応募し、採択となった(発表予定日は2016年7月8日。ケント大学にて開催)。発表タイトルは「The “Quantified Self” in History: Clinical Thermometry in England between Late Nineteenth and Early Twentieth Century」である。該当の学会は、医療の歴史に関する世界最大規模の会合であり、そこで得られたフィードバックをもとに論文の投稿に備えたい。そして、2016年度後半においては、論文の執筆へと移り、年度内の投稿を目指す。具体的には、上記学会の会誌である『医療の社会史』(Social History of Medicine)への投稿を検討している。この執筆作業に関連して、2016年度2月にイギリスで現地調査を再び実施する。既に十分な一次史料を入手してはいるが、補足的な一次史料や各種参考文献などを必要とするため、イギリス・ロンドンに所在するウェルカム医学史図書館を拠点として調査を実施する予定である。2017年度においては、論文投稿後に予想される査読者からのコメント・修正要求に応え、加筆・修正を行うことを予定している。その際にも、ウェルカム医学史図書館を訪問し、作業を進めることが必要となる。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] 後期フーコーと近代史研究のこれから2016

    • 著者名/発表者名
      高林陽展
    • 雑誌名

      史苑

      巻: 76 ページ: 145-154

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 戦争神経症の「歴史」から「文化史」へ-戦争と神経症はなぜ結びついたのか2016

    • 著者名/発表者名
      高林陽展
    • 雑誌名

      精神医学史研究

      巻: 20 ページ: 1-5

  • [学会発表] 医学研究委員会から医学研究評議会へ-大戦期の経験と医学研究の制度化-2015

    • 著者名/発表者名
      高林陽展
    • 学会等名
      化学史学会年会
    • 発表場所
      総合研究大学院大学葉山キャンパス
    • 年月日
      2015-07-04 – 2015-07-04

URL: 

公開日: 2017-01-06  

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