研究課題
研究目的:本研究は、現在の人類にとって主要食糧であるムギ類の栽培やヒツジ・ヤギ・ウシなどの飼育が起源した西アジアで遺跡調査を行い、農耕牧畜が周辺地域へ拡散していったプロセスを考古学や関連諸科学の方法を用いて解明することである。そのために、西アジア北端に位置するコーカサス地方において古代農村遺跡の調査を行っている。遺跡で発見された建築物や炉、貯蔵施設などの遺構や、それに伴って採取された石器や動物骨、植物遺存体などを研究標本として用いる。研究内容:予定通りコーカサス地方のアゼルバイジャン共和国に渡航し、約8千年前の古代農村遺跡(ハッジ・エラムハンル遺跡)の調査を行った。特に、栽培穀物を収穫するための鎌刃を含む打製石器や、収穫したムギ類を加工するための製粉具を含む磨製石器の観察と図化および写真撮影を行い、これらの石器の形態や製作技術、使用痕の記録を収集・分析した。また、ハッジ・エラムハンル遺跡およびその直後のギョイテペ遺跡から採取された家畜ヤギ骨を用いて古代DNAの系統解析を行った。成果の意義:ハッジ・エラムハンル遺跡は南コーカサス地方において農耕が出現した当初期の遺跡である。そのため、当遺跡で使用されていた穀物収穫具や製粉具は、初期農耕民の物質文化の由来や系譜を示す格好の証拠である。その形態や製作技術を分析し、周辺地域と比較した結果、これらの農耕関連の物質文化は肥沃な三日月地帯(特にその北部)に類似例が認められた。この結果によると、南コーカサス地方の農耕発生には、農耕先進地である肥沃な三日月地帯との文化交流が伴っていたことが示唆される。また、古代家畜ヤギのミトコンドリアDNA系統の解析結果によると、南コーカサスの初期家畜ヤギは在地由来ではなく、トルコ東部で家畜化されたヤギが持ち込まれた可能性が認められた。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画で予定していた研究(穀物収穫具、穀物加工具、穀物貯蔵庫)が予定通り進行しただけでなく、南コーカサスにおける牧畜の起源を明らかにするための古代ヤギDNAの研究成果をまとめることができ、それが国際誌で発表されたため。
ハッジ・エラムハンル遺跡から収集された石器標本の整理と論文化を今後も進めると共に、西アジア北端における農耕起源と比較可能な新たな標本の収集も行う。その一環として西アジア南部の遺跡調査や資料研究も予定している。
研究発表を行った複数の学会が所属機関所在地(名古屋)において開催されたため、その分の交通・宿泊費が未使用額として生じた。
これまでの研究成果と比較することが可能な記録を西アジアの考古学調査によって収集する計画を立てているため、その渡航費として使用する予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 6件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
Quaternary International
巻: 396 ページ: 121-137
10.1016/j.quaint.2015.06.014
第23回西アジア発掘調査報告会報告集
巻: 23 ページ: 51-56
International Journal of Osteoarchaeology
巻: in press ページ: 1-16
10.1002/oa.2534
Bulletin of the American Schools of Oriental Research
巻: 374 ページ: 1-28
American Journal of Archaeology
巻: 119(3) ページ: 279-294
10.3764/aja.119.3.0279
異貌
巻: 32 ページ: 20-39
Archaologische Mitteilungen aus Iran und Turan
巻: 374 ページ: 1-25
Antiquity
巻: 348 ページ: 348
http://www.num.nagoya-u.ac.jp/outline/staff/kadowaki/laboratory/
http://www.archaeopark.az/en/project/