本研究は、西アジアの肥沃な三日月地帯で発生した農業が、コーカサス地方へいつ、どのように伝播したのかを考古学的に明らかにすることにより、農業普及プロセスの一例を実証的に示すことが目的である。 最終年度となる本年度は、現地の遺跡調査によってこれまで採取した石器や堆積物の資料整理・処理を進めた。堆積物の微細層位や同位体分析を行うために、海外研究者と共同研究を進めた。研究成果では、論文発表の他に一般社会への成果発信として、研究協力者の属する東京大学総合研究博物館においてコーカサスの古代農村遺跡に関する展示を開催し、公開講演を行った。 研究期間全体を通して最大の成果は、コーカサス地方最古の農村遺跡に関する考古記録を得たことである。アゼルバイジャン共和国のハッジ・エラムハンルテペ遺跡(ハッジ遺跡)の発掘調査は2012年から行っていたが、本研究期間のあいだにその最下層を検出し、放射性炭素年代のデータを得た。それを同地域の他の農村遺跡の年代と比較することによって、ハッジ遺跡がコーカサス地方最古の農村遺跡であることを示し論文化した。 ハッジ遺跡の発掘を通して、穀物収穫具と穀物加工具を採集し、住居址や穀物貯蔵庫の記録を行った。これらは、コーカサス地方における最古の農業活動を示す考古記録である。これらの記録を学会や論文で発表した。 その結果明らかになったのは、コーカサス地方最古の農村(ハッジ遺跡)においても、既に発達した穀物収穫具や加工具、家屋や貯蔵施設が整っていたことである。これは、コーカサス地方における農業が、肥沃な三日月地帯からの影響を受けて始まったことを示唆する。その影響とは具体的にどのようなものであったかを明らかにするために、肥沃な三日月地帯に属するヨルダンにおける遺跡や資料調査の準備を進めると共に、家畜ヤギの古代DNA系統解析の予備的研究にも着手した。
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