本研究では、シルクロード交流の実態解明を目指し、東アジア地域から出土した織物の調査研究を実施した。シルクロード織物研究において注目されるのは高級絹織物であるが、技術・文様が類似し中には製作地同定が困難な場合があることから、各地の織物の特徴を明らかにするために幅広い時期の織物を調査した。織物研究の蓄積が少ないブリヤート共和国(ロシア科学アカデミー)、モンゴル国(モンゴル科学アカデミー、国立歴史博物館、国立カラコルム博物館、ザナバザル名称美術館、アルハンガイ県立博物館、軍事博物館、モンゴル国立科学技術大学、モンゴル国立大学)などで調査を実施し、日本や中国出土資料との比較を進めた。 ブリヤートでは匈奴(紀元前2世紀~後2世紀)から13世紀までの織物を確認した。匈奴期の資料は、モンゴルでもよく見られるZ撚糸の平織物が大半であった。13世紀になるとモンゴル同様にランパ織物(金糸織物)が見られるようになる。バイカル湖周辺にまで中国の絹がもたらされていたことが分かった。 モンゴルでは、紀元前5世紀頃の遺跡から編布やフリンジ、毛皮製品を確認した。匈奴(紀元前2世紀~2世紀)の遺跡からは中国製絹織物(経錦、パイル織、羅、刺繍など)、西方の刺繍、現地製と思われるフェルトや平織物、革製品などを確認した。鮮卑(4世紀頃)の遺跡からは中国製とみられる絹織物が確認できた。突厥(7世紀)の墓からは、西方製・中国製の絹織物の中に、我が国の正倉院に所蔵される錦と同一の織物を確認した。さらに、シルクロードの織物に代表される宝相華文や連珠円文などが、北方のモンゴルにまでもたらされていたことを示す重要な成果が得られた。突厥墓出土織物は緯錦や綾、羅、印金などである。 本研究により、ブリヤートやモンゴルなどの北方にも東西から多くの織物が流入し、また自らも生産するなどして豊かな織物文化を形成していたことを示す重要な成果が得られた。
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