研究課題/領域番号 |
26770273
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安倍 雅史 東京大学, 総合研究博物館, 研究員 (50583308)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ザグロス / 新石器化 / 農耕・牧畜 / ケルマーン / 石器資料 |
研究実績の概要 |
中東の「肥沃な三日月地帯」は農耕・牧畜の起源地と知られている。過去30年間、肥沃な三日月地帯の西翼をなすレヴァントでは新石器研究が大きく進展したのに対し、東翼をなすザグロスでは不安定な政局を受け新石器研究が著しく停滞してきた。この結果、農耕・牧畜はレヴァントに起源し、ザグロスが新石器化に果たした役割は小さいという学説が考古学会で形成されてきた。 しかし、今世紀に入り急速に発展を遂げた遺伝子研究は、対照的に、ザグロスでも独自に農耕・牧畜が開始された可能性があることを示し、国際的にザグロスにおける本格的な考古学調査が求められている。本研究では、ザグロスにおいて総合的な考古学調査を実施し、研究の空白地域であったザグロスにおける新石器化のプロセスを解明することを目的としている。 本年度は、南ザグロスのガブコシ遺跡から出土した石器資料の分析を行った。ガブコシ遺跡は、イラン南東部ケルマーン州最古の農耕村落遺跡である。ケルマーン州では先土器新石器時代の遺跡は知られておらず、土器新石器時代前半(紀元前7千年紀後半)のガブコシ遺跡が最も古い遺跡となっている。ガブコシ遺跡からはスサ入りの粗製土器が出土しているが、この土器は非常にファールス州の土器新石器時代の物に類似していることが指摘されていた。 今回、筆者は、イラン側の要請に答えガブコシ遺跡出土の石器資料の分析を実施した。その結果、石器資料も、非常にファールス地方の土器新石器時代の石器に形式的にも技術的にも類似していることが明らかになった。 ファールス州では、ケルマーン州とは異なり先土器新石器時代の遺跡が知られている。ケルマーン州最古の農耕村落址であるガブコシ遺跡の物質文化が非常にファールス州のものに類似していることから、おそらくケルマン州に土器新石器時代前半に農耕・牧畜文化をもたらしたのは、ファールス州からの移民集団であったと推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、3年間の間にザグロスの新石器化を研究する上でキーとなる初期農耕村落遺跡を2つ発掘することを目指している。 事業の1年目であった2014年度には、タル・イ・ハカヴァン遺跡の発掘調査を実施することを目指した。しかし、発掘準備は進んだものの、最終的に発掘調査の開始には至らなかった。 その代わりに、今年度は、テヘラン大学が発掘しているガブコシ遺跡の石器資料の分析を実施した。ガブコシ遺跡は、イラン南東部ケルマーン州最古の初期農耕村落遺跡である。研究の結果、イラン、ケルマーン州には紀元前7千年紀後半に、イランのファールス地方より農耕文化が伝播してきた可能性があることがわかってきた。 ザグロス内における農耕・牧畜の伝播を考えるうえで非常に重要な研究になったものと自負している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、南ザグロスにあるタル・イ・ハカヴァン遺跡において発掘調査を実施する予定である。タル・イ・ハカヴァン遺跡は、イラン・ファールス州にある土器新石器時代初頭の遺跡である。アメリカ隊によって遺物の表面採集のみ実施されているが、遺跡からは極めて原始的な土器が表採されている。 長年、南ザグロスは、西アジアにおける後進地域であり、土器製作技術もまた、西方から伝播してきたと主張されてきた。しかし、表採された土器は、植物で編んだバスケットに粘土を張り付け焼成するという極めて原始的なものであった。このような原始的な土器の存在は、南ザグロスでも独自に土器というパイロテクノロジーが生み出された可能性があることを示している。 タル・イ・ハカヴァン遺跡での発掘調査は、当該地域における土器の起源を考える上で、重要な資料を提供するものと思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、タル・イ・ハカヴァン遺跡の発掘調査を計画していた。発掘の準備は進んだものの、最終的に年度内に発掘調査を行うことができなかった。 そのため、そのかわりにガブコシ遺跡出土の石器資料の分析を行ったが、発掘調査を実施できなかった分、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、秋以降に、タル・イ・ハカヴァン遺跡の発掘調査を実施する予定である。タル・イ・ハカヴァン遺跡での発掘調査を当初予定していたより長く実施することによって、次年度使用額を使用するつもりである。
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