今年度は、テヘラン大学が発掘調査を実施している初期農耕村落址ホルマンガン遺跡とガブコシ遺跡に関する調査を実施した。 ホルマンガン遺跡は、イラン南西部、ザグロス山脈南部ファールス地方にある土器新石器時代のテル型の遺跡である。2016年より、テヘラン大学のモルテザ・ハニプール氏が発掘調査が進めている。ホルマンガン遺跡に関しては、出土炭化物8点の放射性炭素年代測定と出土打製石器の分析を実施した。炭素年代測定の結果、この遺跡は、前6200年から前6000年の時期に年代付けられることが判明した。また打製石器の分析の結果、前後の時代に比べ、狩猟具である幾何学形石器がきわめて多いことが判明した。前6200年から前6000年の時期は、気候が寒冷・乾燥化した8.2kaイベントの時期にあたるため、農耕・牧畜を補うため、一時的に、狩猟の役割りが高まった可能性が示唆された。 ガブコシ遺跡は、イラン東部ザグロス山脈の南東端にあたるケルマーン州最古の農耕村落址である。ホルマンガン遺跡と同時期の土器新石器時代の遺跡である。2015年度から継続して、ガブコシ遺跡出土の打製石器を分析した。石器の技術的特徴から、ガブコシ遺跡の資料は、イラン南西部ファールス地方の土器新石器時代の遺跡のものと非常に類似していることが判明した。これと同様のことが土器の分析からも支持されている。この結果、おそらく中央ザグロスで開始されたザグロス型の農耕・牧畜文化が、ファールス地方を経由して、ケルマーン州にまで達していたことが判明した。ガブコシ遺跡は、ザグロス山脈の最東端に立地している。これより東側には広大な沙漠が広がっている。ガブコシ遺跡より東側の地域の石器資料をみてみると、ガブコシ遺跡のものとはまったく異なる石器伝統が広がっている。このことからおそらく、ケルマーン州がザグロス型の農耕・牧畜文化が広がった最東端であったと推定された。
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