研究課題/領域番号 |
26770276
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
諫早 直人 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (80599423)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 金工品 / 彫金技術 / 生産 / 流通 / 東北アジア / 日本列島 / 朝鮮半島 / 古墳時代 |
研究実績の概要 |
本研究は東北アジア各地から出土した金工品の彫金技術などの詳細な観察から、古代東アジア世界における金工品の生産と流通の実態を明らかにすることを目的とする。今年度はこれまで継続して調査・研究を進めてきた福岡県月岡古墳出土金工品に対する分析結果をまとめ、雑誌に投稿した。眉庇付冑の彫金技術を一緒に出土したほかの金工品の彫金技術と比較する作業を通じて、5世紀前半に始まる初期金工品生産の一端を具体的に復元することができたことは、文様論あるいは型式論に留まっていた既往の研究を止揚するもので、本研究の起点となる。 また本年度から飛鳥資料館が所蔵する飛鳥寺塔心礎出土舎利荘厳具の整理作業を始めた。本資料は日本列島における仏教導入の実態をうかがい知る一級資料であり、仏教儀礼の荘厳に用いられた金工品の中には日本に仏教を伝えた百済の舎利荘厳具はもちろん、同時期の古墳副葬品と共通するものも多い。本資料を継続的に整理することで、古墳副葬品に偏って進められてきた6世紀代の金工品の生産・流通論を相対化する新たな材料を提供することが期待され、その意義は大きい。 これらの国内での調査と並行して、本年度は韓国の国立中央博物館における皇南大塚南墳出土品の調査、イギリスの大英博物館におけるゴーランド・古墳時代コレクションの調査、モンゴルのモンゴル科学アカデミー考古学研究所における匈奴墓出土資料の調査などの海外調査を進めた。これらの資料についても所蔵機関との協議のもと、実測図の作成やマクロ写真による彫金技術の記録といった国内調査と同水準の調査をおこなうことができた。金工品の調査はほかの考古資料と比べて障壁も多いが、各国を代表する機関で調査に理解が得られたことは、今後東アジアレベルで金工品の生産・流通を論じていく上で非常に重要な実績といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国宝などの貴重資料を含み、脆弱な資料も多い金工品の調査には国内・国外を問わず様々な障壁が存在し、必ずしも計画通りに調査を進めることができなかった部分もある。その点、古墳時代初期金工品の分析を通じて、彫金技術から金工品の生産・流通に迫っていくための方法論を具体的に示すことができたことや、いくつかの海外機関で国内と同水準の調査を進められたことは、今後、調査する予定の所蔵機関・研究者の理解をえるための重要な実績となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後も東北アジア各地から出土した金工品の調査を進め、彫金技術に関する基礎資料の確保に努める。昨年度調査をおこなった5世紀半ばの新羅王陵である皇南大塚南墳出土金工品に対する分析結果をまとめることを当面の目標とする。 また飛鳥寺塔心礎出土舎利荘厳具の整理作業を継続し、その全容解明に努めると同時に、同時期の寺院・古墳出土品との比較研究を進める。
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