本研究は東北アジア各地から出土した金工品の彫金をはじめとする製作技術の詳細な観察から、古代東アジア世界における金工品の生産と流通の実態を明らかにすることを目的とする。今年度も宮内庁書陵部や京都大学総合博物館、天理参考館など国内の諸機関で調査をおこない、実測図の作成やマクロ写真による彫金をはじめとする製作技術の記録をおこなった。また金工品の中でも馬具の生産と流通について、日本および韓国の学会において発表をおこない、研究の到達点と課題を整理した。 くわえて最終年度に当たる今年度は、国内機関所蔵資料についてこれまで実施した調査成果を研究協力者の栗山雅夫氏とともに『古代東北アジアにおける金工品の生産・流通構造に関する考古学的研究』(奈良文化財研究所)としてまとめた。これによって、彫金技術から金工品の生産・流通に迫っていくための基盤を整備するとともに、本科研期間中に蓄積してきた基礎資料や調査方法を学界で共有することができた。また三燕の金工品と倭の金工品の共通点と相違点に関する論考が掲載された論文集が中国語で刊行された。 最後に今年度も飛鳥資料館の協力の下、同館が所蔵する飛鳥寺塔心礎出土舎利荘厳具の整理作業を継続しておこなった。本資料社は日本列島における仏教導入をうかがい知る一級資料であり、倭に仏教を伝えた百済の舎利荘厳具はもちろん、同時期の古墳副葬品と共通するものも多い。今年度は飛鳥寺舎利荘厳具と百済の舎利荘厳具の共通点と相違点について一般書において概説したほか、塔心礎から出土した金・銀の延板や粒について焦点を当て、総数や材質などの基礎データを提示するとともに、百済寺院出土資料との比較をおこなった。
|