研究課題/領域番号 |
26770279
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
石田 由紀子 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (40450936)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 瓦生産体制 / 都城の造瓦 / 中山瓦窯 / 藤原宮所用瓦窯 / 平城宮所用瓦窯 |
研究実績の概要 |
2年目となる2015年度は、①平城宮所用瓦窯である中山瓦窯における瓦生産の実態の把握、②藤原宮における遠隔地の瓦窯の生産様相の把握、③藤原宮から平城宮にいたる瓦生産の共通性と違いという主に3つの視点を中心に研究を進めた。 ①に関しては、奈良文化財研究所による1972年の中山瓦窯の発掘調査出土瓦磚、および採集瓦について、軒瓦の型式照合や製作技法等の再検討を行った。その結果、中山瓦窯では多様な軒瓦が生産され、かつ製作技法に関してもバラエティーがあることを再確認した。この成果に関しては、2016年6月刊行予定の『奈良文化財研究所紀要』で報告する。 ②に関しては、主に淡路島、徳島県、香川県に分布する7世紀の瓦窯の現地踏査をおこない、また、藤原宮所用瓦を生産した兵庫県洲本市土生寺瓦窯、香川県三豊市宗吉瓦窯では出土瓦の調査をおこなった。特に宗吉瓦窯については、藤原宮所用軒瓦と在地の寺院所用である山田寺式軒瓦や川原寺式軒瓦との間には製作技法には共通点があるものの、焼成や色調に違いがある可能性があることが確認できた。②に関しては、2016年度も継続して調査を行いたい。 ③に関しては、藤原宮の瓦工人が平城宮の瓦生産に関与したかという問題に関わる。そこで、平城宮出土の藤原宮式軒瓦の再検討をおこない、分布状況から現時点では藤原宮の瓦窯から平城宮へ直接瓦を供給した様相は確認できないことがわかった。そのうえで、2013年度の中山瓦窯の発掘調査では藤原宮所用瓦6281Bが出土しており藤原宮の瓦窯から平城宮の瓦窯への瓦笵の移動があること、製作技法の共通性から、大和郡山市内山・西田中瓦窯の瓦工人が中山瓦窯での瓦生産に関与している可能性を指摘した。この成果は、奈良文化財研究所主催の第117回公開講演会や、第360回帝塚山大学市民講座等で広く一般に公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
藤原宮から平城宮にいたる瓦作りの移り変わりを広くみることができたことは2015年度の成果である。藤原宮の瓦工人が、平城宮の瓦造営にどう関わったのかということを生産地である瓦窯からと、供給地である藤原宮・平城宮内両方から検討を行うことができた。また、本研究の成果の一部を、公開講演会や市民講座等で一般に公開することもできた。 これに加え、奈良時代前半を中心とする平城宮の一大生産地である中山瓦窯出土瓦磚の再検討をし、その成果を公表した。このことによって、奈良時代の瓦研究の進展に資することができたと考えている。 藤原宮の瓦に関しては、2015年度は遠隔地の瓦窯を中心に調査をすることを予定していた。四国、淡路島については調査を行ったものの、近江、和泉に関しては調査をすることができなかった。このことに関しては今年度に調査を実施する予定をしている。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度以降は、①藤原宮・平城宮の瓦窯の製作技法の特徴を明確にすること、②それらをベースに藤原宮から平城宮にいたる瓦作りの共通性と変化を把握する、③供給地である藤原宮・平城宮出土瓦との比較、これら3点に焦点をあて研究を進めていきたい。 ①に関しては、2016年度は和泉、近江の瓦窯の調査を予定している。同時に奈良盆地内の瓦窯についても調査を進めて行きたい。平城宮に関しては、奈良文化財研究所では中山瓦窯以外にも歌姫西瓦窯、音如ヶ谷瓦窯等の資料があり、これらを中心に調査を進める。ただ、奈良山丘陵に位置する瓦窯は、肉眼観察による胎土の特徴を把握するのが困難である。そこで、胎土分析等、保存科学分野の研究者とも連携をとりつつ研究を進めていきたい。そのうえで②・③の研究を進め、研究成果としてまとめていく。なお、③に関しては都城から出土する瓦の量は膨大である。従って、すべての瓦を調査することは不可能であり、良好な遺構一括資料を抽出し、調査を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度に予定していた藤原宮の奈良県外の瓦窯の調査が、本来の業務との兼ね合い等のため、奈良県外に所在するすべての瓦窯の調査をおこなうことができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度に調査をおこなうことができなかった、推定和泉の堺市浜寺石津町遺跡の資料や、近江の瓦窯である石山国分遺跡については、2016年度に調査を予定している。これらの調査をおこなうことにより、2015年度の未使用額を使用できると考えている。
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