前年度までの研究によって,マイノリティ貧困層への多重剥奪等,インナーシティ問題と災害リスクとの相関の理解を通じて,都市の災害リスクをいかにして,どの程度軽減できるか精緻に検討する「ボトムアップ」式の実証研究アプローチの必要性を見出した。そこで本年度は前年までの現地調査や資料収集を踏まえ,GISによる空間分析等を実施の上,成果の論文化を行った。ルイジアナ州ニューオーリンズにおけるハリケーン・カトリーナ災害からの復興と都市再編(ジェントリフィケーションによる居住者層入れ替えや立ち退き)に関する本研究課題の研究成果を論文として災害復興に関する書籍に寄稿し,刊行された。また,本研究の成果補完のため,カリフォルニア州サンフランシスコにおいて現地調査を実施し,ベイエリア自治体協会(ABAG)や関連団体が作成する地震リスクに関する同協会作成の統計データを収集した。サンフランシスコ・ベイエリアにおける再開発と都市再編に関する資料収集を行うとともに,過酷の災害に関する伝承・啓発施設の調査を行った。さらに,現地の小学生に対して地震等に関する知識や学校での訓練に関するビデオインタビューを実施した。ジェントリフィケーションとそれに伴う災害リスク増大に関する調査の結果をまとめた論文を投稿し,掲載された。また,本研究事業を通じて得られた研究成果について,研究会などを通じて,仙台および周辺に在住するコミュニティ防災の実践者や行政実務者,メディア関係者らにも共有し,本研究課題の社会還元にかかる所期の目的を達成できた。以上を通じて,都市内部に存在する経済格差やそれにともなう脆弱性によって,災害リスクに晒される都市住民に関して,防災行政がそれらをどのように認識し,災害リスクガバナンスを展開しているか考察を進めることが出来た。
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