最終年度となる平成28年度は、まず、住民の日常生活と一定の関係を有する行政上の各種管轄域と通勤圏との対応関係を検証し、両者がおおむね一致することを明らかにした。また、通勤流動のあり方と行政上の各管轄域の中心地の置かれ方との間に一定の関係があり、行政機関の空間編成のあり方が、通勤をはじめとする住民の日常生活行動に影響を及ぼすことが推察された。加えて、通勤圏と各行政機関の管轄域でズレが生じたのは、通勤流動とは異なる市町村合併が行われた地域であったことも明らかとなった。 次に、近畿地方全市町村を対象に通勤流動を分析し、京阪神大都市圏を形成する中部では市町村をまたぐ通勤が活発であったのに対し、過疎地域の広がる北部や南部では市町村をまたぐ通勤が少ないことを明らかにした。その中で、京阪神大都市圏では、集中的多核化と雇用の場の溢れだしとの両面から、中心都市の中心性が弱体化していたことが示された。また、金本・徳岡の提案した都市雇用圏(UEA)の各種基準の適否を検証した結果、UEAは既存の都市圏設定が抱える多くの問題を解決していることや市町村合併進展後の状況にも対応可能な面が多いことなどが確認された。ただし、地方中小都市の通勤圏の把握の仕方や通勤率の基準などでは改善の余地があることも明らかとなった。 研究期間全体を通しては、平成の大合併前後における都市圏の設定の差異には踏み込めなかったが、大都市の通勤圏の縮小や大都市圏の多核化の進展に伴う郊外市町村間の通勤流動の増加など、大都市圏の空間構造の変容過程の一端を明らかにするとともに、過疎地域における通勤流動の特徴も抽出し得た。加えて、実質地域としての通勤圏が有する意義の検討も行った。都市圏設定の基盤となる通勤流動について、市町村合併の影響を考慮した検証を多角的に行うことができたと評価できよう。
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