研究課題/領域番号 |
26770285
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
塚本 章宏 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (90608712)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 京都 / 近世 / 近代 / GIS / 名所案内記 / 地誌 / 絵図 / 都市構造 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、近世から近代移行期の地誌・絵図のデジタルアーカイブとGISデータベースの構築・公開を目指しながら、ここで構築されるデータベースをもとに、これまで個別に分析されることが多かった近世と近代を、GISの援用により一連の流れとして統合したフレームワークから、京都の都市構造とその表象を時・空間的に明らかにすることを最終的な目的としている。 まず、近世近代の京都の都市構造に関わる地誌・案内記類・絵図のデジタルアーカイブについては、京都府立総合資料館に所蔵された資料を基盤として位置づけ、画像イメージ形式によるデジタルアーカイブを進めた。現在までにアーカイブした成果は、自身がこれまでの取り組みにおいて構築してきた「京都地誌データベース」に追加する形でインターネット上に公開し、誰でも閲覧できるようになっている。加えて、それらの資料に掲載された職種・人物・住所情報を抽出し、テキスト形式でのデータベース化を進めている。 また、職種・人物・住所情報をテキスト形式で構築したデータベースをGISに取り込むことによって、複数年代の京都の主要産業を地図化することが可能となった。この当時の職種・人物・住所情報のGISデータベース整備を受けて、都市構造の変遷を分析する準備を進めており、今年度は基礎的な分析に取り掛かり、京都における産業を2つに大別し、「文化人・知識人」は北に、「商工業者」は南へと、それぞれの分布構造が変化することを確認した。 その成果については、学会・論文などで公開を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の前半は、昨年度から引き続いて行ってきた京都府立総合資料館に所蔵された地誌・案内記類のデジタルアーカイブとその成果の公開を進めた。最終的にデジタルアーカイブした資料の点数は、初年度から合わせて約116冊、撮影カット数では約10,000カットを数える。アーカイブされた成果は、自身がこれまでの取り組みにおいて構築してきた「京都地誌データベース」に追加する形で公開した。 加えて、それらの画像データをもとに、複数の時間断面の様々な商工業者・文化人の居住地分布がわかる地図を作製するための基礎データの構築を進め、人物や住所情報が掲載されている頁を抽出してテキスト形式によるデータベース化を行った。このデータベースをGISに取り込むことによって、地図化・空間分析を行うことができる。GIS の空間分析機能を援用した近世から近代にかけての都市構造とその変容過程の分析を進め、京都における産業を2つに大別した複数年におよぶ地図を作製した。その結果、近世の京都において、産業の違いによる分布傾向の時代によって変化していく様子を明らかにした。こうした大量のデータを用いて、多種多様な属性と年代の時空間的な集合・拡散傾向を明示することができた点において、歴史GIS研究の意義を提示したものと考えられる。 また、地誌・案内記によって産業都市の構造変化を把握したことに加えて、当時出版された絵図にそれらがどのように表象されたのかを分析するために、絵図に書き込まれている地名や地物の情報についても、GISデータベース化を進めている。 これらの成果は、新しい歴史GIS の成果として、国内外のGIS または歴史研究関連の学会で公表・発表を行った。本研究課題は、都市構造の分析について一定の成果を得ており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの分析の結果を踏まえて、最終年度は、産業都市としての京都の都市構造の変遷と絵図への表象のされ方を分析して成果を取りまとめる。主には絵図上での地物の表象の変化を捉えつつ、昨年度から進めてきた都市構造の変遷の分析結果を踏まえ、時代間・地域間・資料間の比較によって影響関係を解明に取り組む。 まず、これまで収集してきた近世から近代までの京都の絵図のデジタル画像をGIS に取り込み、絵図に描きこまれた地名や地物のデータベース化を進める。絵図と地誌・案内記のデータベース構築を受けて、これまでの自身の研究において蓄積してきた、絵図に描かれた都市空間を、GIS による定量的に把握する手法を援用して分析を進める。その手法は、簡便すれば、絵図の中心(都市の中心)から描かれている地物までの距離を計測し、その結果を絵図上に等値線として表現するもので、現実の都市をどのように限られた紙面に収められたのかを視覚化することができる。 絵図には、時代や地域を表象する地物が描かれており、この手法を援用することで、近世から近代の絵図にみられる都市の表象の変容について分析を進める。加えて、近代には、琵琶湖や京都駅などの場所が増え、近世までは四角形の紙面に収められていたものが、別紙を貼りつけて不定形な絵図として構成された資料も確認しており、こうした資料自体の分析も同時に進めながら、当時の都市構造と表象の変容過程と影響関係を考察する。 近世・近代の京都における、時間軸を加えた地理空間情報をGIS で可視化することによって、新しい歴史GIS の成果として、国内外のGIS または歴史研究関連の学会で公表・発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
米国サンフランシスコで開催された国際学会Annual Conference of the Association of American Geographersにおいて発表を行ったが、この学会の開催期間が2016年3月29日~4月2日であったため、会計処理が年度をまたぐことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
学会の開催期間が年度をまたいだことで、次年度使用額が発生したが、概ね予定通りに予算執行されており、平成28年度についても当初の予定通り計画を進める。
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