研究課題/領域番号 |
26770286
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研究機関 | 群馬県立女子大学 |
研究代表者 |
関村 オリエ 群馬県立女子大学, 文学部, 准教授 (70572478)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジェンダー / 都市空間 / 住民 / 人文地理学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、都市郊外空間における地域の多様な担い手の姿を可視化し、彼/女たちが直面する課題を明らかにすることである。そのため、都市郊外空間のリストラクチャリング過程における住民の地域「参加」の議論を、ジェンダー地理学に包摂させ、新たな研究の遂行を試みている。自治体業務の縮小・外部化を背景に、地域協働が活発化する千里ニュータウンを対象として、担い手の地域「参加」の課題を検討した。 2015年度は前年度に引き続き、民営化と地域協働(ガバナンス)が活発化する千里ニュータウンを対象として、住民たちの地域への「参加」、および家庭内における課題を分析・検討した。この背景には、民営化する大規模郊外ニュータウンにおいて、これまで私的でボランタリィな活動としてみなされてきた住民による活動が、行政のカウンターパートとして認知され、公的な活動としての地位を獲得しつつあるという状況がある。 当該地域において子育てネットワーク(特に学校のPTAネットワーク)を基盤として、継続的に取り組まれている地域活動に焦点を当て、これらの活動が地域協働の前提となる家庭・個人の生活をいかに支えているのかをジェンダーの視点から考察する。また、これらの活動が、家庭内および地域内において、これまで固定的とされてきたジェンダー関係、そこに内在するパワーバランスに対して、どのような変化を起こしているのか(否か)を量的・質的データを分析・検討することで明らかにすることを目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先述のように、2015年度は、当該地域において子育てネットワーク、特に学校のPTAネットワークを基盤として、これらの活動が地域協働の前提となる家庭・個人の生活をいかに支えているのかをジェンダーの視点から分析することを中心的な課題とした。子育てネットワークについては、学校関係者や当該地域の研究協力者(インフォーマント)の理解と助けを得ながら量的・質的な調査を実施することができ、多くの貴重な資料を得ることができた。 本年度中心的に行った量的調査つまりアンケートの実施については、昨今高まる個人情報に対する警戒感や不安感に対する説明、信頼関係の構築に特に時間を要した。質的調査についても信頼関係の上で調査が初めて実施可能になることや、これに関連した趣旨説明の重要性は当然のことであるが、広域のアンケート調査となったために多くの関係者への説明、一度限りの機会を無駄にしないための実施準備に時間を要した。このことは今年度の進捗状況に大きく影響している。また研究代表者が一時休業したことも影響したと思われる。 ただし多少のずれ込みは生じたものの、調査は順調に遂行された。実施したアンケートからは、当該地域において学校区を基盤として子どもを介したネットワークが確立されているが、その中心的な動機にも関わらず、子育てサービスをめぐっては家庭内で役割を担う母親たちに不利な状況を招いていることがわかってきた。昨年度、本年度の資料により、住民のインフォーマルな資源に依拠する地域協働の実態と、そこに関わる住民の負担を解明することで、郊外空間においてジェンダー化された地域「参加」の議論に新たな視点を加えることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、都市郊外空間における地域への「参加」、またこれを通じた住民たちの活動実践が、職住分離の構造によって支えられてきた空間の秩序、特にその前提になってきた家庭・地域におけるジェンダー役割分業の仕組みと規範を乗り越える可能性を持つものであることを解明することを目指している。こうしたことを通じて、郊外空間の「縮小化」とリストラクチャリングという変化の中で、空間を成立させるためのジェンダー秩序が具体的にどのような再編・変化を迫られているのかを詳細に明らかにできると考えている。 最終年度である3年目には、これまで行ってきた調査資料と考察の成果を踏まえて、大阪府千里ニュータウンおよび大阪府豊中市を事例として、都市郊外空間における住民の地域「参加」を整理したいと考えている。具体的には、①仕事と子育ての両立を目指す母親のネットワークと活動実践、②階層化・複雑化する郊外空間のまちづくり実践、等の議論を深めていきたいと考えている。 変容しつつある都市郊外空間においては、地域協働のメカニズムが、今後ますます住民のインフォーマルな資源に依拠する可能性が推測される。そこには女性たちのボランタリィな活動の認知等可能性も多く予想されるが、反面、そこに関わる住民たちの負担の増加等ジェンダー化された課題も大い予想される。地域「参加」の議論を、エスニシティやセクシャリティを含むジェンダー地理学の議論に包摂させるには、まだまだ多くの課題があるが、「新しい公共空間」を目指す公正な参加機会や、家庭・地域という空間単位の重要性の再検討という点で、社会的にも学術的にも有意義な研究になると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、次年度は量的調査(アンケート)の実施に関連したインタビュー等の補足調査、加えて、2015年度計画していた国際学会参加の時期がずれ込んでしまったことが挙げられる。これにともない、外国語校閲費用や旅費等の調整を行い、次年度に向けて確保したため、使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記で述べたように、使用計画としては、①アンケートの補足調査として行うインタビュー等にかかる旅費、人件費、②国際学会参加にかかる旅費、宿泊費用等の諸経費、また、③研究成果の国内外への公表のための外国語校閲費用等に使用する計画である。
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