本年度は,前年までの調査の補足と成果の公表が目的であった。調査については,広島のほか,当初の対象地域の一つであった福岡でも実施した。その結果を比較検討し,広島における演劇活動が公的主体による支援へ依存していること,福岡のそれは,企業のメセナ活動の影響が強く見られることが明らかとなった。またこれら地域では市場圏の範囲も異なっており,消費者(観劇者)の観劇理由にも,差異がみられた。 現地調査はスムーズに進んだ。事象のより深い理解をえるため,調査対象をさらに地方縁辺地域まで広げ,そこでのパフォーマンスの存立基盤と有り様についても調査した。すなわち,広島および宮崎の縁辺地域でのコミュニティベースで実施されるパフォーマンスである。 これら地域では,パフォーマンスの商品化が困難であり,よって求められる社会的役割も都市部とは大きく異なる。これら地域におけるパフォーマンスは,むしろその社会的役割,すなわちコミュニティの維持とコミュニティ文化の継承が強調され,商品化についてはコミュニティ構成員間で対立がみられた。これは,市場経済の中で商品として消費される大都市のパフォーマンス,趣味の延長線上に位置する地方都市のパフォーマンスとの比較の中でとりわけ強調される点である。 これらの成果は,国際学会発表2本,国内学術雑誌論文1本,編著本分担執筆1本,ウェブ掲載記事3本,シンポジウムパネリスト1本として公表した。
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