本研究は、「華南地域」(中国の沿海地域に加え、香港、マカオ、台湾、東南アジア華人社会を含めた拡大地域)を対象に、中国の文化政策が、既存の社会的ネットワークをどのように利用し、また逆に、どのようなプロセスで新たなタイプのネットワークや人の移動を創出しているかを明らかにすることを目的としている。 最終年度は、本研究期間に調査地にて学術交流を行った日本、中国、マレーシア、スペインの研究者と議論を重ね、最終成果として『中国系新移民の新たな移動と経験』(明石書店、2018年10月)を出版した。本書は、本研究の対象地域の「華南」にやってくる中国系の若年の考察に加え、海外の中国系の若者が、どのように「中国の伝統文化」に向きあっているかについての考察も加え、彼・彼女の生の経路、日常生活のなかで創造・実践されている文化、そして中国との関わりについて論じた。そして、考察を通して得られた知見から、「華人ディアスポラ」を批判的に検討し、中国系新移民のヴァナキュラーな文化と「中国文化」がどのような相互作用を展開しているかについて考察した。 本研究課題の成果は、国民国家を超えて展開される「中華圏」(Greater China)における相互作用を、中国を「中心」、海外在住の中国系移民を「周辺」として捉えるのではなく、海外在住の中国系移民を「中心」とする立場から考察することができたことである。とりわけ、現地化の進んだ若年世代に注目し、彼/彼女らが中国とどのように出合い、目の前にどのような中国像が浮かび上がってくるのか、その諸相を考察することに成功した。2013年から習近平政権が始動し、「中華民族」を社会主義に代わる手段として用いることにより、海外華人を中国へ惹きつけることにも関心が高まっている。しかし、そうした「中華」の求心力・遠心力を冷静に見極める世代の存在も明らかになった。
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