本研究の目的はピースワーク労働をめぐる環境を中央アジア、ウズベキスタンの刺繍制作に従事する女性から解明することであった。最終年度は夏、冬2回にわたり、研究の仕上げとなる出張を行い、研究成果の確認を行った。以下が最終年度の調査で明らかになった点である。 1.ウズベキスタンは2016年まで続いてきたカリモフ体制から新大統領のミルジヨエフ政権へ移行した。ミルジヨエフは「観光」をウズベキスタンの経済発展の要に位置づけ、観光業に携わる人々(刺繍業も含まれる観光用工芸品制作者)の支援策を打ち出した。具体的には工芸家の免税措置、若者向けマイクロクレジットの拡充である。この支援策は都市部のみならず、農村部にも浸透し、ピースワークで工芸を制作していた女性の起業が容易になった。本研究で対象とした刺繍業でも調査当時には刺繍繍い子だった女性の多くが独立した起業を実現させていることがわかった。ここからウズベキスタンでは国家主導型の経済支援策がピースワーク労働を減らし、独立事業家への変化を促していることが理解できる。 2.だが一方で、ピースワークに従事したままの女性に対する恩恵はいまだ限定的であるといわざるを得ない。経済支援策の対象者は主に若者および起業を希望する人々であり、ピースワーク労働者は支援の網の目から外れてしまっている。確かに事業家の増加でピースワークの仕事は増えた。だが事業家の乱立で価格競争が生じ、繍い子の人件費を削り作品価格を引き下げようとする傾向が現れている。工芸品というより、安価な土産物としての需要は高い技術をもつ繍い子を数名抱えるより、雑な作業でも早く安く大量に生産できる素人に需要が集まることになった。ここから長年刺繍を行い、高い技術をもつ繍い子が敬遠される結果が生み出されてしまった。 ピースワーク労働に注目することで経済支援策の落とし穴を照射できる重要性があるといえよう。
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