ニュージーランドでは、1990年代以降はマオリ社会と政府の間で、植民地主義的収奪を巡って、司法・行政的手段を通じた「和解」 が進展してきた。この結果マオリ社会は、「和解」の要件として政府から諸々の権利や補償金を獲得し、ポスト「和解」時代を迎えつつある。本研究の目的は、このような時代背景のもと、都市というグローバルかつローカルな場に生きるマオリ集団そして個人が、多様な形態の先住権を元手に、都市の土地や環境に対して行う諸実践の実態を明らかにすることである。
4年度目は最終年度として、これまでの研究の成果を踏まえて、他地域の先住民あるいは潜在的先住民の現状と比較しながら、ニュージーランドの国家制度やマオリの先住民という地位や権利の固有性を、明らかにすることに努めた。その過程において、「和解」がマオリの社会構造やアイデンティティに及ぼした影響を改めて考察すると同時に、ポスト「和解」時代を迎えるにあたって、異なる立場から表明されている現行の先住民政策に対する批判について、検討を行った。また、国連を中心的なアリーナとして、1990年代以降、グローバルな先住民運動が盛り上がったなかで、マオリが果たした役割やニュージーランドの対外的な主張についても、関心を寄せるようになった。さらにニュージーランドにおける多民族・多文化状況に対して理解を深め、特に先住民と他のマイノリティの関係性を明らかにする必要があると感じた。これらの成果の一部は、編著と論文に発表した。
|