本研究では、経験者の高齢化により、今まさに失われようとしている機械化以前の安山岩採掘技術と、それにともなう文化を明らかにし、記録することを目的とし、その成果を考古学や文献史学へも反映させることが試みられた。 研究の成果としては第一に、安山岩の採掘技術の観察と記録があげられる。神奈川県真鶴町で産出される小松石を題材とし、安山岩の採石技術について採石業者へインタビュー調査をおこなったほか、小割についてビデオ撮影をおこない記録した。こうした作業は、伝統に根ざした技を含む安山岩採掘技術を記録保存するものであると同時に、中世および近世の石材採掘技術の再現に取り組む考古学や歴史学の研究にも還元されるものである。 また、第二の成果としては『徳川林政史研究所所蔵「駿州・豆州・相州 御石場絵図」の研究』の刊行があげられる。本報告書では、徳川林政史研究所所蔵「駿州・豆州・相州 御石場絵図」およびその付属文書について、その全帖の写真を掲載し(絵図についてはカラー)、翻刻をそえた。さらに、現地での研究に取り組む研究者の協力のもと、それぞれの丁場に関する最新の研究成果も掲載した。 本報告書の刊行のために、前年度も考古学や文献史学の研究者とともに現地比定作業を進めてきたが、今年度も前年度に引き続き現地比定調査をおこなった。また、昨年度よりおこなっていた絵図および付属文書の翻刻作業も、引き続き歴史学の研究者の協力を得ながら進めた。今年度後半には報告書の刊行に向けた編集作業をおこない、3月30日に報告書が完成した。『徳川林政史研究所所蔵「駿州・豆州・相州 御石場絵図」の研究』の刊行は、近年盛んとなっている江戸城の石垣用石材の産地としての伊豆半島地域の研究に大きく貢献するものであり、民俗学的にも、伊豆半島の生業や社会組織の歴史的変遷を考えるうえで重要な成果となった。
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