研究課題/領域番号 |
26780002
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
佐藤 史人 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (50350418)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ロシア / 司法制度改革 / 多元的裁判所制度 / 通常裁判所 / 仲裁裁判所 / 憲法裁判所 |
研究実績の概要 |
昨年度に検討の対象とした2014年8月におけるロシア連邦最高裁判所および最高仲裁裁判所の統合により、ロシアの監督審制度および破棄審制度に大きな変容が生じた。本年度は、これにあわせ、過去の仲裁訴訟法典における監督審制度の研究成果に新たな知見を加えて仲裁監督審についての論考をとりまとめるとともに、それとの対比で2002年民訴法典の監督審およびソ連時代の監督審に関する検討を行い、それらの制度の特質に関する新たな知見を得た。 また、連邦憲法裁判所が、通常裁判所および仲裁裁判所に及ぼす影響についての研究を進めた。第1に、連邦憲法裁判所の判決の「類型」論の観点からこの問題を検討し、研究会において、主に連邦憲法裁の「却下決定」の特質に関する報告を行った。第2に、司法改革における連邦憲法裁判所の立場を、ゾーリキン長官の発言を中心に分析し、憲法裁判所が違憲審査のみでなく、その本来の役割を超え、通常の法令解釈を通じた民事訴訟制度の制度設計に踏み込んでいることを確認した。 ヨーロッパ人権裁判所のロシアを被告国とする判決の動向について検討し、同裁判所とロシアの司法制度との関係において、2000年台に問題にされていたいわゆる「クローン事件」とは異なる新たな問題軸が生じていることを明らかにし、また、それとの関わりで2013年末から進行している連邦憲法裁判所改革についてもフォローし、その概要を小論にまとめた。 以上により、多元的裁判所制度の相互関係に関する分析のうち、本年度は、民事訴訟法典と仲裁訴訟法典の法的効力を生じた裁判を見直す制度に関する比較、および、連邦憲法裁判所からその他の系統の裁判所への影響について一定の成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、連邦憲法裁判所、ヨーロッパ人権裁判所が通常裁判所および仲裁裁判所に及ぼす影響に関する調査において一定の成果を得るとともに、仲裁裁判所と通常裁判所の相互関係につき、審級制度の比較という観点から、特に民事訴訟制度における監督審について包括的な検討を行い、新たな知見を得た。また、上記の研究の過程で、元ヨーロッパ人権裁判所裁判官コヴレル氏、連邦憲法裁判所調査官マリューチン氏へのインタビューを行うなど、実態調査を進めた。以上の結果、3年目に検討予定であった裁上級審裁判所間の司法改革構想の動向について先取り的に研究を進めることができた。 他方で、初年度に2014年の最高裁判所統合問題を扱ったことから、各系統の裁判所間の事物管轄をめぐる紛争の分析についての研究が遅れていたが、本年度は、この点に関しての研究が進まなかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進行が遅れている各系統の裁判所間の事物管轄をめぐる紛争の分析を行う。また、モスクワ大学教員および憲法裁判所スタッフへの聞き取り調査を行ったが、通常裁判所、仲裁裁判所については現地調査を行えなかったため、今後は上記の領域を中心に、研究調査を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、在外研究でモスクワに滞在していたため、モスクワ大学教員および連邦憲法裁判所職員に対する聞き取り調査を行う際に、旅費および宿泊費が不要なことから、この点での支出が生じなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究図書の購入およびモスクワ、サンクトペテルブルクにおけるインタビューの実施、国際会議への参加により残額を使用することを予定している。
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