昨年に続き、憲法裁判所の実務が他の系統の裁判所に及ぼす影響について分析を進めた。憲法訴願制度に即して憲法訴訟制度の発展を検討することで、ロシアにおける憲法裁判が、個々の市民の権利の救済、すなわち小さい正義の実現という点で他の系統の裁判所に対し、積極的な姿勢を見せていることを確認した。 またヨーロッパ人権裁判所と憲法裁判所の関係についても検討を続け、近年の憲法裁判制度改革において設けられた手続が、ヨーロッパ人権裁判所に対し、極めて敵対的な方向で運用されていることを確認した。また、2014年のクリミア編入合憲判決と同判決をめぐるその後の論争をフォローし、憲法裁判所が、政治部門との関係では従順であるだけでなく、「国家主権」の積極的な擁護者となっていることを確認し、ロシアの憲法裁判所は、独特の「積極主義」の立場に立っているとの結論を得た。以上の点から、現代ロシアの憲法裁判の特質を、「司法ポピュリズム」という概念のもとで位置づける視点を得た。 また、このような点を比較法の観点から分析するため、旧ソ連・東欧諸国に属するハンガリーにおける憲法裁判と政治部門の関係についても検討し、政治部門の権威主義化というロシアと共通する特徴のもとで、ハンガリーの憲法裁判所の権限が変容し、その権限が著しく縮小するというロシアとは異なる展開を進むことを跡づけつつ、同時に、小さな正義の実現に「引きこもる」というロシアと共通する特徴をあわせもつことを確認した。 仲裁訴訟制度と民事訴訟制度の比較については、監督審を中心に体制転換後の民事訴訟制度の展開をフォローすることにより、2002年の新民事訴訟法典と新仲裁訴訟法典の制定の際に、全く異なる方向性を持つ改革が行われたことを明らかにし、多元的裁判所制度の存在が、民事裁判の内部において、事物管轄の相違に規定され全く異なる手続を発展させたことを確認した。
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