最終年度に当たる本年度は、前年度までに進めていた古代レトリックに関する検討をまとめる作業を中心的に行い、研究会等で報告の機会を持つとともに、論文として公表を開始した。具体的な内容としては、法廷実務とも深く関わる古代レトリック教育について、その実態を知るうえで重要な史料となる模擬弁論の文献に着目して、法廷実務との関わりという観点から、関連する研究史や史料の特徴等について詳しい検討を行った。これは、従前の研究史上において十分な整理さえもなされてこなかった観点に基づく検討であり、今後のレトリック研究の方向性の一つとして新規性のある提案を行ったものと考える。研究紀要に連載中の当該論文は、5月中には完結を迎える予定である。 本研究課題にとってもう一つの要素を構成している、パピルス史料等を通じた法廷実務の解明の試みについては、研究期間を通じて継続していた重要な史料の読解及び整理の作業成果に基づいて、いくつかの具体的な事件における当事者、弁護人及び裁判担当者による議論の解析と、レトリック理論を用いたその分析を進めた。とりわけ日本では、このような観点を明示した研究それ自体がほとんど見られないため、今後の学説上の新たな展開に資するものと考える。こちらの成果については、前者のレトリックに関する成果とも総合したうえで論文としての整理がなされており、前者の成果と同じく研究紀要において順に公表されることになる。
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