研究課題/領域番号 |
26780004
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
吾妻 聡 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (60437564)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 批判法学 / ロベルト・アンガー / アメリカ法理論 / 障害学 / 障害法学 / 差別禁止法理 |
研究実績の概要 |
1.平成26年6月まで,ハーヴァード・ロー・スクールlにおいて,本研究が注目する思想家ロベルト・アンガー教授に直接師事し,批判法学・法社会理論の課題と展開について研究を行った。 2.平成26年8月より(現在まで),U.C. バークレー・スクール・オブ・ローにおいて,障害をめぐる法と正議論,法と潜在的差別論(implicit bias)およびアメリカ医事法の課題と展開について研究を行った。 3.その成果として,論文"Dynamics of Legal Thought: Toward Disability Legal Studies -- in the Service of Japanese Anti-disability Discrimination Law --"を執筆した(近日出版予定) 。本研究の課題である障害者差別をめぐっては,日本においては,2013年に障害者差別解消法・改正雇用促進法が制定され,2016年に施行予定である。本論文は,ロベルト・アンガーの分析枠組と手法を用いながら,アメリカ法学における障害差別禁法理・合理的配慮概念をめぐる論争の構造を明らかにするとともに,より広くアメリカ法学主流派と批判法学・その他の学派間との論争状況にも考察を加え,更に,得られた知見を日本の障害法学の分析と今後の展望にも生かそうと試みたものである。方法論的には,差別禁止法理・原理についての内的批判を徐々に発展させ,社会構造そのものの批判および差別禁止法の実効性を確保するための制度構想論に結びつけようとする批判法学の手法を明らかにしようとしたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,「もう一つの」批判法学たるRoberto Ungerの“制度構想の法学”を“社会変革・創造の知”として再生させることを目的とする。ことに,(a) Unger理論と現代アメリカにおけるその嫡子たる民主的実験主義の法学Democratic Experimentalismと,(b)わが国の制度設計論・政策法学(行政法学),法政策学・改造の法学(民法学),立法理学(法哲学)といった想像力豊かな新しい法学研究とを比較研究することを通して,社会のありうべき“かたち(ヴィジョン)”を提示する学問としての法学jurisprudenceの人文社会科学における最重要性を改めて主張する。主に障害差別禁止法制・政策を具体的フィールドとし,“制度構想の障害法学”の方法とプログラムの提言を目指す。 本年度執筆の論文"Dynamics of Legal Thought: Toward Disability Legal Studies -- in the Service of Japanese Anti-disability Discrimination Law --"では,ロベルト・アンガーの批判法学の分析枠組・手法を精緻に理解することに努め,これを障害法の最重要概念である合理的配慮(reasonable accommodation)をめぐるアメリカ法理論・論争の構造分析へと応用することで,「もう一つの」批判法学の一般的な姿を示すことができたと考えている。引き続き,民主的実験主義およびわが国における法学の動向(制度設計論・立法理学など)について研究を深め,より具体的な批判法学像を示すことを目指す。 ただし,在外研究に専念したこともあり,上記論文の年度内の公表がかなわなかった。本年度は遅れを取り戻すために積極的にアウト・プットを行う。
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今後の研究の推進方策 |
【課題1.アンガーから影響をうけた次世代の進歩主義法学である民主的実験主義の法学の研究を深める。】次世代が打ち出す民主主義実験主義とアンガー自身の立場とは必ずしも完全に重なり合っているわけではない。相違の意義を踏まえながら,民主主義的実験法学をわが国の障害法学と結びつける。 【課題2.日本の制度設計論・立法理学・法政策学についての研究を深める。】アメリカの批判法学の分析手法を,文脈の相違を踏まえずに日本の制度論にそのまま応用することも適切ではない。日本に蓄積された知見を十分に理解しつつ,批判法学を生かす道・批判法学によって日本法学を生かす道を示すことを目指す。 【課題3. 日本の障害法理論・労働法理論・社会保障法理論についての研究を深める。】同様に文脈の相違を適切に踏まえつつ,アメリカ障害法理論・差別禁止理論における論争が,近年発展をみている日本の障害法学や労働法理にもたらす示唆・教訓について研究を深める。 【課題4.日本の障害者差別解消・雇用促進をめぐるさまざまな実験的試み・実践についての経験的研究を行う。】批判法学は最終的に社会構造論・制度論へと発展する。そのために,官民協働の社会実験・制度提言など障害者の社会進出を後押しする近年の社会実践の経験的観察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
アメリカ在外研究に従事したため,物品・書籍等,購入を最小限のものとせざるを得なかった。そのために,国内で購入予定であった物品(コンピューター・大型書籍)・学会参加のための旅費など,ほとんどの執行が行えなかった。また研究会・勉強会も開催できなかったために,謝金を執行することもできなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
1.大型図書(法理論関連書籍・障害学・社会学関連書籍・政治理論関連書籍)の拡充を行う。2.消耗品(同上)の購入を引き続き行い,コンピューターその他の必要消耗品の購入を行う。3.学会(国内外)に積極的に参加し,本年度の在外研究の成果を発表するとともに,日本の障害法学の発展動向の研究を行う。4.研究会を積極的に行い,他の研究者との意見交換を活発に行う。
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