研究課題/領域番号 |
26780004
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
吾妻 聡 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (60437564)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 批判法学 / 制度学派 / ロベルト・アンガー / 法律学方法論 / 障害法学 |
研究実績の概要 |
1.本研究は,(1) “「もう一つの」批判法学”の論客である思想家Roberto Ungerの“制度構想の法学”を社会変革・創造の学問として再生させることを目的とする<方法論的研究>と,(2)創造的な法学の今日的表現の1つとしての民主的実験主義の法学Democratic Experimentalismが提案する具体的制度を考察して,これを障害法学に応用することを目的とする<制度論的研究>という,大きく分けて2つの要素をもつ。27年度は<方法論的研究>において大変大きな進展がみられ,28年度により具体的な<制度論的研究>を展開してゆくためのしっかりとした準備が整った。 具体的な成果は以下である。 2. 吾妻 聡「Roberto Ungerの批判法学批判―『批判法学運動』における形式主義批判・客観主義批判についての覚書―」(岡山大学法学会雑誌,2015年12月)において,大変難解であることで知られるRoberto Ungerの『批判法学運動』(1983;1986)という著作の核心は,批判法学運動そのもののを内在的に乗り越えて“批判法学制度論派”という独自の立場を構築する試みにある,という―これまでは適切に論じられてこなかった―根本的なUnger論を示した。 3.吾妻 聡「『もう一つ』の批判法学による法教育」(岡山大学法学会雑誌,2016年3月)において,Ungerにおける批判法学的/制度論的な法概念―社会構造(制度と意識)としての法―の焦点を,Unger思想の全体に体系的に結びつけるかたちで,かつ,初学者にも理解できることを強く意識しながら,論じた。 4.吾妻 聡「障害者に対して公正な配慮ある社会を」阿部 昌樹 他 編著『新入生のためのリーガル・トピック50』(法律文化社)において,障害法学における根本概念である“差別”・“合理的配慮”の法社会構造論的な意義について論じた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度執筆の主要論文である,吾妻 聡「Roberto Ungerの批判法学批判―『批判法学運動』における形式主義批判・客観主義批判についての覚書―」(岡山大学法学会雑誌,2015年12月)では,昨年度までの在外研究の成果(Roberto Unger教授から直接ご教示いただいた,また,Unger理論に共鳴する若手研究者たちとの議論を通して得た,Unger思想の核心についての理解)をまとめたものであり,わが国の批判法学研究のカタログのなかに独自のUnger論を加えることができた。 “批判法学制度学派”のマニフェストとしてUngerの法理論に関する著作を理解する本論文は,ちょうど2015年に出版された『批判法学運動』の第2版に加筆された長文の序文の内容とも符合するものであり,批判法学をわが国の今日的文脈―新しい立法の時代―に生産的に応用するための―批判法学の最重要人物であるDuncan Kennedyの仕事に加えて/それとは異なる―「もう一つの」筋道がより闡明に見えてきたと言ってよいと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
【課題1.“制度の不確定性論”としてのリアリズム法学の現代的再生】Unger教授と直接対話をし,また<"制度学派"としてのUnger流批判法学>という理解を得たことで,アメリカにおける制度論的法学の原点であるリアリズム法学 legal realismの本格的研究と再構成が,本研究の根本的課題としてあらためて闡明化された。わが国で流布してしまったJ. Frank流のリアリズム―法解釈の恣意性・主観性の暴露としての「法の不確定性論」―ではなく,Hohfeld, Hale, Commons, Cohenらの法制度構造の脱自然化論―制度の不確定性論―というテーマについて考察を深める必要がある。 【課題2.民主的実験主義と障害法学の接続】Unger理論および制度の不確定性論としてのリアリズム法学という観点に影響を受けた次世代の法理論としての民主的実験主義の法学を,同様に社会の制度と意識(=構造)を変革することを根本課題とする障害法学に接続することが本年度の中心課題である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通りに執行し,4,702円のみ余った。
|
次年度使用額の使用計画 |
1.大型図書(法理論関連書籍・障害学・社会学関連書籍・政治理論関連書籍)の拡充を行う。2.消耗品(同上)の上乳を引き続き行い,必要消耗品の購入を行う。3.学会・研究会に積極的に参加し,研究成果を発表する。
|