研究課題/領域番号 |
26780005
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
森 光 中央大学, 法学部, 准教授 (70349215)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地上権 / 地役権 / 差止請求権 / 所有権の内在的制限 / 債権と物権の峻別 / ローマ法 / 法学史 |
研究実績の概要 |
本研究の1年目にあたる平成26年度にあっては、特に物権的保護のためのactioやinterdictumの全般について総合的把握をめざす点に重点をおいた。古典期ローマ法における所有権は、確かに実体法的にみれば権限の束としてではなく、自由に使用・収益・処分できる権利として観念されていると大筋でいうことはできるにしても、その保護は、多数の訴権や特示命令の束によって図られている。そこで、これらの訴権や特示命令のそれぞれについてUlpianusの告示注解の記述の分析と総合的検討を行い、物権的権利の保護の全像を訴権法的思考にそった形で把握することにつとめた。なおこの作業の中間的報告として、古代ローマにおける建築自由についての小論を発表した。 またこの作業とあわせ、次の2点については研究成果の報告も実施した。 Servitusというラテン語の単語は、最も典型的には、地役権を意味する。しかし時には、ususfructus(用役権)を意味することもあり、さらにsuperficies(地上権)もまたこの用語に含まれていると解される箇所もある。このservitusという単語の用語法の理解如何により、superficiesの権利としての承認過程の展開の説明は大きくかわる。そこで、この問題について集中的に検討した。 superficiesの権利としての承認は、それについての規定がハドリアヌスが編纂を命じた一種の法典である永久告示録の中にあることから、この時期に始まったとみる見方が有力である。ところが、この編纂を行ったとされる法学者Iulianusの残存する著作をみる限り、彼がsuperficiesを物権的権利の意味で用いた例は全く存在しない。彼以前の法学者にもその例は見いだせない。以上の内容の論文をドイツ語で執筆し提出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(A群)地上権に関する法史料、(B群)それについての碑文史料、(C群)建物に関係する法史料全般、(D群)考古学史料の検討を行うものである。予定では1年目はA群とB群の史料を分析を進めるとともに、地上権の生成に関し作業仮説をたてること目標においていた。 史料の分析については概ね、予定どおりのペースで作業を進めることができた。B群の史料の中の、特に建物所有権にかかわる史料が当初予想したりより数が増大したが、特に作業の遅延という状況にまでは至っていない。 作業仮説についても予定どおりの作業を進めることができている。従来、地上権は、公有地を利用する私人のための制度が拡大したものと理解されている。その起源はともかく少なくとも、2世紀における都市の再開発の流れのなかで、所有権を取得しないで大規模建造物を建築する建築形態が生じ、これが地上権の権利としての承認と物権化を推し進める要因になったのではないかという仮説をたて作業を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
以下、法史料関係(A群・C群)と非法史料(B群・C群)とに分けて記すことにする。 法史料については、所有権関係の史料を訴権法的思考にそった形で分析する作業がほぼ最終段階に入っている。これからこの作業を総合し、所有権保護の全体像を把握する。これを通じて、物権的な権利の保護のプロトタイプを明確に把握することができるといえる。そして用益権や地上権がこうした物権的保護を拡大していく過程を描き出すことに務める。 非法史料についての分析は、公刊されているものについては、必要なものの収集はほぼ完了している。これからは、上記仮説にそった形で史料の分析に入るとともに、先行研究の批判的摂取をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費の処理がおくれ、年度内の処理ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越分については、平成26年度内の支出をもってあてる。
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