地上権の生成過程の解明をめざす本研究にあっては、所有権の保護のあり方や、その他の用益権や地役権といった権利の物権化プロセスを明らかにすることがその前提となるため、こうした権利の保護にかかわる各種の訴権・特示命令の全体像を提示することが求められた。この要請に応える業績が拙著『ローマの法学と居住の保護』である。この拙著の原稿は平成28年度開始直後の4月中に出版社に提出し、提出後の校正過程で大幅な修正を行いつつ、年度内に出版を完了させた。これにより、地上権の生成過程を分析する具体的道筋を明らかにすることができた。 地上権の保護は、 地上権に関する特示命令(interdictum de superficie)の導入によりはじまる。従来のローマ法研究にあっては、この特示命令は当初は公有地上に自らの費用で建物を建てた者の保護のためのものであったが、後に私人たる他人の土地に建物を建てた者の保護にも用いられるようになったと説明した上で、この拡大が地上権生成の起点であるとされてきた。この説明に史料上の根拠がないことは本研究の申請時より指摘してきたことであるが、そうではないとすると上記の特示命令に当初期待されていた機能が何であったのか、別の形で説明をすることがもとめられる。平成28年度中は、この点に特に集中する形で研究をすすめ、上記の特示命令は、当初は、相隣関係において隣地にはみだす形で建物を有する者の保護のためであり、その後相隣関係に限らず適用されることが認められるに至ったと説明できるとの認識に達することができた。この種の建物を保護するために上記の特示命令があったと説明するならば、古典期の訴権・特示命令の体系や所有権やその他の物権的権利の発展状況と無理なく調和した形で説明できる。この認識については近日公表予定の論文で論じる予定である。
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