まず、「穂積八束「憲法制定権ノ所在ヲ論ズ」を読む」は、明治15年の「主権論争」において穂積八束が公表した一つの論考を検討したものであり、最終年度を迎えた本研究の一応の取りまとめに当たる業績である。この論文では、穂積が生涯にわたって説き続け、彼の国体政体二分論とも密接な関連を有する憲法制定権力論が、明治15年の「主権論争」という「場」を抜きにしては語れない議論であるということを強調した。もとより試論の域を出ていないものであるが、従来の穂積研究に一石を投じることができれば幸いである。 また、本研究に深く関連する戦前の日本憲法学説史に係る業績としては、「天皇機関説事件」および「憲法改革・憲法変遷・解釈改憲――日本憲法学説史の観点から」がある。前者は、昭和10(1935)年に生じた天皇機関説事件を可能な限り当時の視点から再構成しようと試みたものであり、後者は、「憲法変遷」をめぐる戦前から戦後にかけての学説史を「法と政治」という観点から論じたものである。なお、「学問・政治・憲法――佐藤功を手がかりに」は、後者の論文で取り扱った佐藤功の憲法学を戦前と戦後を一貫させる形で掘り下げたものであり、本研究の副産物的な業績と言えよう。 さらに、本研究における学説史研究を基礎にした業績として、一連の天皇制研究がある(「「人間」と「天皇」の間で」および座談会3本)。もとより、これらはすべて2016年7月以降の時局に対応したものであり、どこまで本研究の成果を活かせているかは心許ないところもあるが、歴史研究を現在の解釈論に応用することの(不)可能性について考える機会を得たのは貴重な経験であった。 なお、本研究が戦前の学説史研究であるのに対し、戦後憲法学説史に係る業績であるという意味において本研究の副産物的な研究成果として、「北海道と9条」および「忘れられた名著たち――戦後憲法学・再読」を公表した。
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