研究課題/領域番号 |
26780008
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
河合 正雄 弘前大学, 人文学部, 講師 (90710202)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イギリス / ヨーロッパ人権裁判所 / 受刑者の権利 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、受刑者の権利・自由に関するヨーロッパ人権裁判所とイギリスの国内裁判所の判例動向を探り、日本における、受刑者の権利保障により資する判断枠組みのあり方を考察することにある。平成26年度は、特定の権利・自由の制約に焦点をあて、ヨーロッパ人権裁判所とイギリスの国内裁判所の判例動向を検討した。具体的には、次の研究を行った。 第1に、仮釈放の可能性を認めない絶対的無期刑はヨーロッパ人権条約3条に反するとした、ヨーロッパ人権裁判所の判例を検討した。ヨーロッパ人権裁判所は、国際人権諸法規も参照しつつ、刑が確定した時点では適切な量刑であったとしても、一般に自由刑の目的とされる「公衆の保護」や「社会復帰」の要素については、処遇効果等によって事後的に変化しうる点も根拠にあげており、社会復帰処遇の重要性を意識していることが見出された。 第2に、収容期間の延長を伴う懲罰は刑事罰に相当するとして、刑事手続上の権利の保障を認めた判例を検討した。ヨーロッパにおいては、行刑運営の根幹である懲罰権の行使においても、刑事手続に準じた権利保障を及ばせる方向に向かっている事が示唆された。 第3に、受刑者の選挙権を全面的に剥奪するイギリスに対して、選挙権を付与する法改正を繰り返し求めるヨーロッパ人権裁判所と、厳罰化政策やナショナリズム感情からこれに強く反発するイギリス国内の状況について検討した。ストラスブールと、イギリス国内の世論や政治部門の双方から一定の距離を保ちうるイギリスの国内裁判所の立ち位置が、問題解決の糸口となる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
絶対的無期刑や選挙権といった、特定の論点に関するヨーロッパ人権裁判所の判例法理に関しては、検討を一定程度進めることができた。しかしながら、これらの研究が、受刑者の権利・自由一般に関するヨーロッパ人権裁判所判例の動向をつかむ方向での検討を十分に行うことができたとは言えない。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、前年度の検討結果をふまえつつ、受刑者の権利・自由一般に関するヨーロッパ人権裁判所の判例動向を把握する。 現時点で、受刑者の選挙権保障をめぐるイギリスとストラスブールとの関係と、受刑者の人工授精の自由に関するヨーロッパ人権裁判所の判例を題材とした論文を執筆中であり、それぞれ共著論文と紀要論文として掲載する予定である。これ以外の研究成果についても、学術論文として所属大学の紀要等に投稿するように努める。 研究費は、前年度と同様に、学術書籍の購入および学会・研究会への参加や資料収集(国内)のための旅費等に用いることを予定している。
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