研究課題/領域番号 |
26780009
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
中島 宏 山形大学, 人文学部, 准教授 (90507617)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ライシテ / フランス共和主義 / イスラム・スカーフ |
研究実績の概要 |
本年度は、研究計画に基づき、主にフランスにおいて発生したBaby Loup事件の全体像の把握および分析に努めた。特に、国内裁判所の判例およびその社会的影響、オランド政権による対応を主に検討した。 Baby Loup事件とは、私立保育所で発生した職員解雇事件である。解雇の発端が当該職員のイスラム・スカーフ着用にあったことから、その解雇の是非を巡って論争となった。この事件の重要なポイントは「私立」の保育所で発生したことである。すなわち、憲法原則であるライシテ(非宗教性)原則の私人間適用が問題となったのである。 裁判所等の判断は分かれた。特に、ライシテ原則の本件への適用を否定し、解雇を違法と判断した2013年破毀院社会部判決に対しては多くの批判が寄せられた。移送後のパリ控訴院は「信条企業」の概念を利用して解雇を適法と判断し、破毀院社会部に「反逆」した。結局、再上訴を受けた破毀院大法廷は解雇を適法と判断している。 本事件を巡っては、ライシテ原則の適用範囲を私企業にまで拡大すべきとの議論が主張され、新立法の検討も行われた。しかし、オランド政権下で提出された公的報告書は、立法の時宜性や質、外交的配慮の観点から、新立法の可能性に消極的な立場を明らかにした。 本年度の研究実績の概要は以上のとおりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、まず8月の憲法理論研究会夏季合宿研究会において口頭報告を行い、質疑応答等を通して有益な指摘・示唆を頂くことができた。それを受けて、本年度12月に予備的な検討の成果を、大学紀要掲載の論説として公表することができた。さらなる本格的な研究を進めるための足掛かりとなった。 また、公表には至らなかったが、欧州人権裁判所によるブルカ禁止法条約適合判決(2014年7月1日)の分析を進めることができた。その成果の公表につながるようさらなる検討を進めたい。 以上のように、次年度における研究の遂行と成果の公表のために、順調に研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、①Baby Loup事件のさらなる検討、②欧州人権裁判所判例の分析を進めていきたい。Baby Loup事件については、本年度の研究に不足していた二次資料の検討を進め、その成果の学会紀要における公表を予定している。また、欧州人権裁判所の判例については、ブルカ禁止法条約適合判決に関する分析を進め、その成果の公表に努めたい。
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