本年度は、研究の方向性を修正しつつ、初年度および前年度の研究成果を論文としてまとめ、海外でのシンポジウムにおける報告を行った。 ブルカ禁止法制定後、オランド政権下では新たな禁止立法が敬遠され、「ライシテ憲章」を学校・役所に配布するという「ソフト」な路線が取られた。しかし、欧州人権裁判所によるブルカ禁止法の肯定、私立保育所におけるイスラム・スカーフ着用が問題となったBaby Loup事件の発生、そして相次ぐテロ事件の発生により、「ソフト」路線は大きく揺さぶられることとなった。 このうち、欧州人権裁判所ブルカ禁止法条約適合判決は、イスラム・スカーフやブルカの着用をめぐる様々な見解・立場を参照しつつ、結論としてフランスにおけるブルカ禁止法を肯定した。注目すべきは、男女平等や公的安全の確保を目的とした禁止を否定したことである。欧州人権裁判所は、専ら「共生」のための覆面行為禁止を正当化可能と判断した。ブルカ禁止はフランス以外のヨーロッパ諸国に拡大しつつあるが、欧州人権裁判所によるこのような限定がどのような意義を持つかが重要となろう。 また、私立保育所におけるスカーフ着用を理由とした労働者解雇事件の発生により、公的領域だけでなく、労働空間におけるスカーフ着用禁止を立法化するよう求める声が噴出した。結果として、2016年の労働法改正の一環として、企業の内規による禁止を可能とする立法が成立した。さらにムスリム女性用の水着、ブルキニを禁止する声も大きくなっており、もはや「ソフト」路線の維持は困難となっていると言えるだろう。 本年度の研究実績の概要は以上の通りである。
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