研究課題/領域番号 |
26780011
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
内野 広大 三重大学, 人文学部, 准教授 (90612292)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 憲法 / イギリス憲法 / カナダ憲法 / 国制上の習律 / 政治的憲法論 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、以下の三つのアプローチから、Griffithの政治的憲法論(以下、「政治的憲法論」と表記する)の特徴をヨリ鮮明にしようと努めた。 第一に、「政治的憲法論」の対抗言説であるLord Hailshamの主張内容を概観し、それが特定の現状把握を基に制限政府という理念及びその制度的な構想を提示しようとするものであり、その現状把握といわば共犯関係に立つ法実証主義を批判するものであることが判明した。第二に、「政治的憲法論」を十分に理解するには、昨年度までの研究の積み重ねから、その哲学的基礎の解明が必須であることが判明したため、その解明を行うための予備作業を行った。具体的には、G. Geeによる「政治的憲法論」解釈の基盤となっていたM. Oakeshottの我が国における研究状況、他方でT. Pooleによる解釈の特徴でありその背景を成すと考えられる哲学的思潮に関する我が国の諸文献を検討した。第三に、同じく政治的憲法論の一翼に数えられながらも「政治的憲法論」とは一線を画すものと考えられるA. Tomkinsの政治的憲法論を分析し、その共和主義的な立憲主義の論証過程、その内実、その実践的活用のあり方を考察した。 第一のアプローチにより、「政治的憲法論」の特徴をあぶりだすのに適した着眼点を設定することが可能となった。第二のアプローチにより、GeeやPooleによる「政治的憲法論」解釈を相対化する視座を得ることができる契機を入手するとともに、「政治的憲法論」に関する論考の全体構成を省みるきっかけを得ることができた。そして第三のアプローチにより、Tomkinsによる「政治的憲法論」解釈の特徴を明らかにすることで、「政治的憲法論」にさらなる見方や相があることが判明し、また比較検討のための着眼点が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度においては、「政治的憲法論」との絶えざる対話に関しては、前述のように、三つの観点から「政治的憲法論」にアプローチをし、次のような実りを得た。第一に、「政治的憲法論」の特徴を際立たせる予備作業として、他の論者による「政治的憲法論」の解釈内容をさらに検討し、また、「政治的憲法論」に対立する論者の主張内容にも考察を及ぼすことを通じて、比較検討のための着眼点を得た。第二に、「政治的憲法論」の説く制度的側面を可能ならしめている哲学的基礎につき、我が国における関連文献を手掛かりとしつつ考察を進めた結果、「政治的憲法論」の根底に触れるとともに、「政治的憲法論」を的確に分析しそれとの対話を進める上で重要となる概念を精錬することを通じて、「政治的憲法論」に関する論考の全体構成や問いの設定そのものを再考できた。その意味では、我が国における習律の基礎づけという研究目的の達成に一歩近づいたものと評しうる。 しかし、当初の想定とは異なり、次の諸点については不十分な取り組みに終わった。第一に、各論者の「政治的憲法論」解釈が前提とするGriffithの諸文献を精読できず、各「政治的憲法論」解釈を十分に咀嚼し相対化できていない。第二に、Tomkins以外の政治的憲法論者の論考に手をつけるに至っておらず、比較検討のための着眼点の設定は十分なものとはいえない。第三に、憲法典を有しながらも習律を国制の重要な一部として承認する国家における習律論につき考究の必要性を感じながらも、カナダ憲法における習律論を検討することができなかった。こうした研究上の遅れは、哲学的基礎の解明まで要求する「政治的憲法論」の奥深さに由来し、それは当初の想定を越えるもので、やむをえない面もあるが、研究の進み具合はやや遅れていると評さざるをえない。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、①「政治的憲法論」との対話を継続するとともに、②比較法の対象国としてカナダを設定し、そこでの習律論につき考察を深める。 ①に関しては、第一に、対抗言説にあたる法的憲法論の構想につきさらに検討する。法的憲法論の代表的論者の一人として位置づけうるT. R. S. Allanの憲法理論は、Griffithが論敵として設定していたDworkinの法理論の影響を色濃く受けており、「政治的憲法論」の特徴を明確にするための比較対象として適切である。その際には、Allanが「法の支配」の原理を重視してその理論体系を構築していることから、特に法の支配原理の理念的側面と制度的側面に焦点を当てて研究を進める。 第二に、日本法とイギリス法との対話を可能ならしめる接点を探るべく、日本法における立憲主義論にも検討の範囲を拡大する。両者における問題関心の相違や制度面の相違に焦点を当てる。 ②に関しては、第一に、イギリス憲法とカナダ憲法との異同を整理し、比較法の土台を作り上げる。第二に、憲法と習律の関係について、主にA. Heardの習律論を読み解き、カナダ憲法下における諸学説を整理・検討する。イギリス法を継受するカナダ憲法下にあっても、多元論と一元論が対立しているが、こうした対立状況につき、各学説が採用する「憲法」や「法」の定義が憲法典の有無と直接的に関連性をもつものとして理解されているのか否か、また、一元論による多元論に対する批判内容に着目し、多元論が応答すべき課題を特定したい。なお、カナダ憲法における習律論については可能な限り平成28年度中に論考にまとめる予定である。 なお、当初の計画とは異なり、イギリス多元論を支える法的主権と政治的主権の区別論を正面から扱わないこととしたのは、Allanの法の支配論が法理学の知見を活用しており、その分析に相当な時間を要すると判断したことによる。
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次年度使用額が生じた理由 |
高額な洋書を海外から取り寄せる予定であったところ、年度末までに入手できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
カナダ憲法の考察を行うにあたり必要となる重要文献の購入に充てる予定である。
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