本研究は、「信頼保護原則」の憲法上の原則としての位置づけを確立し、同原則による立法者の統制理論を構築することを目的とするものである。以下の研究成果を含む著書の原稿を仕上げ、次年度に発行予定である。 本年度は、具体的な違憲審査の場面における信頼保護原則のはたらき方の検討として、とりわけ社会保障法(特に年金制度)関連での、ドイツ連邦憲法裁判所の判例及び学説の議論の分析を進めた。年金の期待権の場合、憲法裁の判例では、基本的に信頼保護原則は実質的には役割を果たし難い状況となっていた。ただし、保険料の支払い(固有の寄与)によって憲法上の限界が形成される可能性が説かれている。また、信頼保護原則は、その根拠を財産権保障(基本法14条)にも求めることができると解されている。財産権は法律による内容形成を前提とする権利であるとし、保護範囲としての憲法上の財産権概念を観念しない立場からは、財産権形成の過程で公益との調整を伴うものとなり、信頼保護原則の顧慮は、形成の際の衡量の一部に過ぎないものとなる。このように、憲法上の財産権保障の構造と信頼保護原則との関係についても執筆することができた。 さらに、本年度は研究最終年度となるため、研究のまとめとして、これまでに実施したドイツにおける信頼保護原則に関する議論の研究成果を踏まえて、日本法へどのような示唆が得られるかを考察した。社会的状況の変化に合わせて臨機応変に制度を改変していくという立法のダイナリズムの要請や既得の権利の強い保護を単に予測可能性の確保という観点から基礎付けることへの懐疑から、日本においても信頼保護原則の観点から個別に保護の在り方を検討すべきであるとの結論に至った。こうした考え方は、日本の最高裁判所の判例とも適合的である。
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