平成29年度の研究実績は、ブランダイスの表現の自由理論から示唆を受けた日本における表現の自由についての具体的な解釈提案が主となっている。まず、編集代表者として出版に携わった『精読憲法判例(人権編)』(弘文堂,2018年)では、表現の自由に関する複数の重要判例について解説をおこなっており、また、同書の判例について逐行的に注釈を付す方式は、ブランダイスの判決について論じたヴィンセント・ブラシの論文から示唆を得たものとなっている。また、「接見禁止と接見の自由-よど号ハイジャック記事抹消事件判決を起点とした一試論-」木谷明編集代表『憲法的刑事弁護-弁護士高野隆の実践』111-159頁では、ブランダイスがその意義を論じた明白かつ現在の危険基準の基本的発想に基づき、裁判所による接見禁止命令の限界について論じたものである。さらに、「研究不正と営利的言論の法理-ディオバン事件における薬事法66条1項の解釈論争を素材として」論究ジュリスト25号68頁(2018年)では、ホイットニー対キャリフォルニア判決におけるブランダイスの言論を踏まえ、虚偽言論の処罰範囲について検討をおこなっている。さらに、ブランダイスの表現の自由に対する研究のなかで示唆を受けたブランダイスの民主主義観に基づき、「21世紀の財産権と民主主義」法律時報89巻4号104頁を公表している。また、公表には至っていないが、ブランダイスの表現の自由理論の全体像を示す研究論文について現在執筆中であり、次年度中の公表を目指している。
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