本研究の最終年度である平成28年度にあっては、これまでの研究をブラッシュアップし、成果として仕上げてゆく作業を進めた。なかでも本研究のレビューを受ける機会を設けるとともに、本研究の成果を論文のかたちでアウトプットすることを目指した。 具体的には、まずウィリアム・アンド・メアリー大学のニール・デヴィンス教授と面会し、本研究のレビューを受けるとともに、併せてインタビュー調査を実施した。とりわけディヴンス教授には、女性の中絶の権利に関する憲法裁判についてインタビューを頂戴し、中絶をめぐる判例や政治の動向とともに、そのなかにおける裁判官による価値衡量のありようについてもご見解を伺うことができた。この分野における第一線の研究者と直接に意見交換をすることができたことは、本研究にとってきわめて有意義であった。 また本研究の成果として論文の執筆を進めた。本年度に主として取り組んだ論文は次の2点である。第1に、黒澤修一郎「第8章 立法裁量―立法の動機を審査することは可能なのか?」(大沢秀介・大林啓吾編『アメリカの憲法問題と司法審査』(成文堂)229-265頁、2016年)を公表した。この論文はアメリカ憲法裁判における立法動機審査のありように関する歴史的な考察を通じて、本研究のテーマである利益衡量論との異同を浮かび上がらせようとするものである。第2に、裁判官による価値衡量に関する研究の一環として、アメリカにおける中絶裁判に関する論文の執筆を進めた。この論文は平成28年度中の公表には至らなかったが、申請者の所属大学の紀要である島大法学への早期の公表を目指して現在作業を進めている最中である。
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