研究課題/領域番号 |
26780016
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
西貝 小名都 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 准教授 (20580400)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 国家論 / 国法学 / 意思主義 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、代表国家概念の理論的研究の発表と主権論についての基礎研究を行った。前者に関しては、'Representation without Interpreter'(イタリア、憲法雑誌)でその一部を公表している。具体的には、代表論がその出発点としているアリストテレスの意味の三角形は、それ自体が無限後退という理論的不都合を有しているため、この三角形とは異なる形で代表論を把握することが必要であると考えている。解決策は一つとは限らないが、今のところ、メンタリズム、つまり人間の脳裡などのイメージに着目した意味論ではなく、行動主義的に人間の言語解釈的集団行動を把握することによって、メンタリズム的な三角形の不都合はかなりの程度回避できることがわかった。この方向性を提唱しているのが、先に挙げた論文である。本年度はこの趣旨を日本語で、日本の憲法学における代表論の平面で論じた論文、そしてフランス・ドイツの国家理論の平面で論じた論文も公表する予定である。 後者である主権論の基礎研究については、主権論のバックボーンとなる契約理論についての調査研究を進めた。現在も進行中である。ホダンの、しばしば絶対主義的に理解される主権論のプログラムが、国家人格論と、国家権力と主権の分離(19世紀ドイツ国法学)によって書き換えられたとき、その中枢的なプログラムにも変更が加えられたが、その変更の意味は、もともとボダンの主権論が依拠していた特殊的な契約理論なしには理解することができない。この変更に対する理解は、ケルゼンの国家理論とその限界を検証する際になくてはならない理論的基礎である。この問題を、現在「団体自治について」という連載論文(法学会雑誌)で一部公表し始めたところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、国家の代表概念の理論的基礎と、主権論の理論的基礎について、重要な点についての解明を進めることができたからである。もっとも、主権論の理論的基礎である契約理論の部分は、対象となる文献のほとんどが古い文書でありかつラテン語文献もかなり含むため、作業には相当の時間を要するため、現在も進行形で続けているところである。しかし大筋での結果は得られたと考えているので、今はその成果を公表することにも力を注いでいる。 なぜ当初の予定通り順調に進捗していると評価するかを、以下具体的に述べる。当初の研究目的は、近代国家概念の理論的含蓄と具体的公法制度におけるその帰結を、理論的・歴史的側面から探る作業を行うことであったが、まず主権論という歴史的に形成されたプログラムと、具体的な公法制度が連結する場である、ナシオン主権論とプープル主権論というテーマが日本の憲法学には存在する。本助成を受けたこの研究のおかげで、これまで我が国では契約理論や代表理論を含めた理論的検討が行われてこなかった分野であるこのテーマについて、この連結を可能としている理論的前提をはじめとして、ナシオン主権論の提唱者であるカレ・ド・マルベールの議論を媒介とした詳しい検討を行う「ナシオン主権論とプープル主権論」を公表できるはこびとなった(30万字程度の論文)。また、同じく本研究プログラムの成果として、近代国家の意義を正面から問う連邦制と並んで困難なテーマである地方自治制度について、代表・国家理論と主権理論の錯綜をどのように整理しなおすことで現代の地方自治制の法律学的理解が形成されたかを検討し、並んで、19世紀ドイツ法実証主義的国法学からケルゼン、ハートに至るまでの法体系論の発展と我が国における地方自治制度理解の学会内での齟齬の関係について検証する「団体自治について」を公表できることとなった(3~40万字程度の論文)。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、主権論の理論的基礎である契約理論の基礎研究、および19世紀ドイツの一般国家理論の理論的解明、日本における国体論争の解明の作業を行う予定である。前2者は、すでに相当の程度作業が進んでいる。3つ目は、本年度から本格的に着手している。3つ目は本来来年度の計画としていたものだが、研究の進行状況が良いため、同時に進めることにした。今回の研究のおかげで、主権論の理論的基礎と代表論の理論的基礎というバックボーンの解明に注力することができたため、それを利用した2番目と3番目の作業は、いわば応用的な問題でありそれほど難儀ではない。本年度も精力的にこの研究を進めていきたい。また、本年度は、本研究の成果として、かなりの量の論文を公表する予定である。具体的には、国家学会雑誌に「ナシオン主権論とプープル主権論」という5回の連載論文を掲載、法学会雑誌に「団体自治について」と題する、19世紀ドイツ国家理論からケルゼン、ハート、ラズまでを扱った5~6回の連載論文を掲載、その他、単発の論文をいくつか公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度の前倒支払請求をした際に、本の購入費を概算してこれに基づいて請求したため、実際にかかった金額がそれよりも少なくなり、端数が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度における本及び消耗品の購入に充てる。
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