本研究は,「情報プライバシー権の再構成」というテーマで,アメリカとヨーロッパとの比較法研究を通じて,情報プライバシー権の基礎研究を3年間の研究を行った。 本研究は,個人の「自由」の系譜の中でプライバシー権が生成されたアメリカと,人間の「尊厳」の哲学に基づきプライバシー権・個人データ保護権が発展してきたヨーロッパとの対比を行い,法制度の根底にあるプライバシーの思想を炙り出した。西欧のプライバシー権としてひとくくりにするのではなく,アメリカとヨーロッパとでは,法制度のみならず,「自由」と「尊厳」をめぐる法思想においてプライバシー権をめぐる衝突が見られることを論証してきた。このようなプライバシーをめぐる衝突の理論は,2015年10月のEU司法裁判所のEUからアメリカへの個人データの移転を取り決めた枠組みであるセーフハーバー無効判決において象徴されるように,現実において反映されることも論究してきた。特に今年度は,このEU司法裁判所の判決以降,アメリカとEUとの間で新たなデータ移転の枠組みであるプライバシーシールドに合意するなどの動向もあり,この合意文書にみられる米欧間のプライバシー権の異同について研究を深めることができた。文献,史料の収集,読解のみならず,国際会議への出席を通じて研究者,規制担当官,産業界の専門家から意見をうかがい,研究を行ってきた。 最終年度の成果としては,個別の政策論について,拙著『事例で学ぶプライバシー』(朝陽会,2016)をはじめとする論稿において展開を行ったとともに,国際会議における発表を行ってきた。
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