研究課題/領域番号 |
26780023
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐俣 紀仁 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (10612533)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際組織のアカウンタビリティ / 世界銀行 / 国際連合 / 国際開発金融機関(MDBs) / 国際組織の責任 / 国際組織 / 国際組織の正当性(正統性) |
研究実績の概要 |
研究の初年度である平成26年度は、計画通り、「国際組織のアカウンタビリティ」という概念がいつ、どのような問題意識の下に導入されてきたのかという点を中心に、2004年以前の学説の展開過程を分析した。個々の国際組織について、1980年代頃から、世界銀行や国際通貨基金のコンディショナリティが引き起こす弊害、平和維持活動に伴い生じる領域国国民への被害の救済等の分脈で、アカウンタビリティという概念を用いて国際組織の業務の改善を求める議論が散見される。しかし、国際法学において、広い意味での国際組織の「責任」の問題を一般的に「アカウンタビリティ」という概念の下で検討する議論が急増するのは、1995年のInstitut de Droit internationalの研究成果が公表されてからであった。1995年のこの研究成果は、国際組織が負う責任の問題を、主として加盟国(主権国家)との関係で検討している。しかし、その後、アカウンタビリティを主題に掲げたInternational Law Associationの報告書(2004年)では、私人やNGO等の「市民社会」を含む、第三者の利益保護の問題も重点的に取り扱われている。 1995年の議論と2004年の議論との間に見られるこのような相違点は、国際法学における「国際組織のアカウンタビリティ」の意味内容の変遷を示す重要な一例であると考えられる。この意味で、今年度の研究を通じて学説の展開過程全体を把握する上で重要な知見を獲得できた。 以上のような当初の予定に沿った研究の進展と合わせて、研究の問題意識とその視座を広く世に問うために積極的に研究成果を公表した。具体的には、法学および国際法外交雑誌での論文執筆、日本国際連合学会での口頭発表を通じて、今日の「国際組織のアカウンタビリティ」概念の多様性と、その多様性を看過することで生じる弊害について問題提起を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究を通じて、国際組織のアカウンタビリティをめぐる国際法学上の議論にも、複数の異なる系譜(主権国家と国際組織の関係を念頭に置いた議論と、国際組織の活動から被害を受けた者を広く救済の対象とする議論等)があることを明らかにすることができたため、当初の研究目的はおおむね順調に達成されているものと評価できる。 ただし、第二次大戦終了後から1970年代の議論の分析については資料の制約等の問題から必ずしも十分ではない。この点については、次年度以降にも継続的に取り組んで、研究の総括作業に活かしていくこととしたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、ILAの「国際組織のアカウンタビリティ」に関する報告書が公表されて以降の学説の展開過程を追う。具体的には、国際組織法一般の議論に加えて、グローバル行政法論、立憲主義等、比較的新たな理論的な立場が、同概念にどのような意味づけを与えているのかを調査する。また、これまでの研究の中で欧州の公法分野におけるアカウンタビリティ概念の導入が、「EUのアカウンタビリティ」、ひいては「国際組織のアカウンタビリティ」をめぐる議論に影響を及ぼしていることが判明した。この点については、マックスプランク比較公法・国際法研究所で資料収集および意見交換を行い、本研究の成果に反映させることとしたい。 合わせて、「国際組織のアカウンタビリティ」に関する国際組織の実行の分析も継続して行い、実行を通じた同概念の発展を整理、検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、海外の研究機関での資料調査のために旅費を計上していたが、国内での資料収集が極めて効率的に進んだので、初年度には海外渡航を行う必要がないと判断したため。
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次年度使用額の使用計画 |
初年度の研究計画を進める中で、欧州における議論の最新動向を把握する必要性があることが判明した。次年度使用額は、平成27年度以降に、欧州地域での資料および聞取り調査に充当して使用する。
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