本研究「国際刑事司法の実効性確保に関する基礎的研究:国際刑事裁判所に対する国家の協力義務」の目的は、条約によって設立された国際刑事裁判所に対する国家の協力義務の内容、性質、範囲を明確にし、国際刑事裁判所の実効性確保及び国際刑事司法全体の実効性の確保並びに法的安定性の一層の強化に貢献することであった。研究計画時の具体的研究項目は次の三つである。 (1) 国際刑事裁判所に対する国家の協力義務内容・性質・範囲 の確認 (2) 国際刑事裁判所に対する国家の協力に関する国内法整備状況の確認 (3) 国際刑事裁判所の実効性評価の基準の確認及び実効性評価 以上三点のうち、最終年度には、前年度からの課題として、英語で研究成果を公表すること、及び上述第三点目の項目に包含される論点である「各国際刑事法廷の国家の協力義務に関する比較検討」を行うことが課題として残されていた。これら課題のうち、前者については、関連シンポジウムにおいて英語で口頭報告を行うことができた。さらにはその成果物として未発表の原稿を英語で書き上げ、後に出版される本シンポジウム報告を基にした書籍の一部となるなど総じて一定程度の成果を得た。もう一方の課題である各国際刑事法廷の協力義務に関する比較検討については、文献収集と読解に時間を費やし、研究成果の公表遅延が生じている。とはいえ、最終年度に第三点目を中心とした研究を行うという研究開始当初の目的は達成できた。平成28年度前半には、広く国際公法の実効性確保という課題に対する理論的検討そしてそこから派生する国際法の不遵守への対応についての基礎理論研究に時間を費やした。最終的には、これら理論研究が国際刑事裁判所に対する国家の協力義務の不遵守のメカニズムを解明し、ひいては不遵守に対してどのような実効性確保が考えられるかという問いを究明することに貢献し、本課題の結論を導く布石となった。
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