初年度は、ドイツ労働協約制度において労働組合の統制力が低下している状況で、学説や立法で労働組合の権限を抑制しようとする流れにあることが明らかとなった。最終年度は、1年目に扱えなかった最低賃金法・協約自治強化法のほか、2010年に判例で廃止された協約単一原則を法律で復活させる2015年協約単一法の形成経緯・内容を調査し、これらの意義をドイツ労働法の歴史と法体系の中に位置付けた。 この2年間の調査を通じて、ドイツで伝統的に労働協約に対して国家介入が抑えられてきた理由が、産別組織とそれを制度的に維持・強化していた協約単一原則にあり、同原則が廃止されて組合の統制力が弱まれば、立法および学説が、協約自治への国家規制を強化すべきとの論調に傾くことが分かった。以上のドイツの基本的考え方はドイツ人教授との議論でも確認された。しかし今後は、協約単一法により労働組合の分散化がある程度抑制されると思われ(ただし同法には違憲の疑いがある)、労働組合の統制力が回復されれば、協約制度が伝統的枠組みに戻る可能性もある。 以上の検討から、日本で労働組合と従業員代表の権限関係を考える上では、個々の代表者の機能と規範的位置づけ(憲法上の権利保障)を一応区別し、問題とする法制度の意義(最低限の労働者保護かそれを超える有利な労働条件の獲得か)に応じて、形式的根拠の違いと実態のいずれを重視するかを検討し、法制度に反映させる視点の重要性が示唆される。ドイツでは、団体交渉レベルが下位(職業レベルまたは一部では企業レベル)に下がっているとはいえ、組合自体がいまだ企業外に組織され、企業横断的規範形成を行うのが基本であることを踏まえれば、ドイツにおける組合と従業員代表の権限範囲を、日本にそのまま応用することはできない。日本では労働者保護は国家が主要な役割を担うことを前提に、組合と従業員代表の権限調整を図ることが妥当と思われる。
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