本研究は、効率性の抗弁を中心として反競争的行為が正当化される場合を総合的に検討することを目的としている。 第一に、効率性の抗弁に関する成果として、柳武史「カナダ競争法における効率性の抗弁の根拠―消費者の利益による歴史的変容―」立正法学論集52巻1号(2018年)を公表する(掲載確定)。これは、カナダ競争法96条1項が規定する効率性の抗弁に関して、立法の契機となった報告書、議会における審議、そして判例等による事後的な評価を読み解くことによって、その根拠を歴史的観点から検討するものである。そこでは、「効率性の抗弁は、ある種の事件においては、競争よりも企業結合が有益であるという議会の認識である」(2015年Tervita事件カナダ最高裁判所判決)という根拠の把握が基本的には維持されているものの、目的規定である同法1の1条には、カナダ経済の効率性及び適応性を促進すること以外にも、「消費者に競争的な価格と製品の選択肢を提供する」といった他の法目的も存在し、効率性の抗弁の根拠が消費者の利益を踏まえて歴史的に変容を遂げていること等が注目される。 第二に、我が国独占禁止法における正当化事由に関連する成果として、柳武史「事業者団体と共同ボイコット:東京地裁平成9年4月9日判決」『経済法判例・審決百選〔第2版〕(別冊ジュリスト)』88-89頁(2017年)を公表し、安全の確保に基づく正当化事由が論点の一つとなった裁判例について①独占禁止法8条5号の要件該当性及び②同条1号の要件該当性の分析を行った。特に、同条1号の規定する競争の実質的制限の解釈の文脈において、上記裁判例の「自由に市場に参入することが著しく困難となった」という簡潔な評価を検討し、これは伝統的に認められてきた統合型市場支配に加えて閉鎖型市場支配も認めるものではないこと等を示唆して正当化事由の議論の前提となる法解釈を考察した。
|