本研究の目的は、わが国独禁法の母法である米国連邦取引委員会法5条に基づき「不公正な行為・慣行」として規制された先例と、EU機能条約102条に基づき不公正であるとして規制された消費者搾取型濫用行為にかかる先例との分析を主としながら、従来、便益と費用という分析になじまないため、その内容の検討が十分にはなされない傾向にあった「公正性」にかかる理論的基礎について、明らかにすることである。 本研究が対象とする分野では、法規制、実務、そして研究面において、常に新しい動きがあることを考慮すると、検討の対象としていた制度的枠組みが大きく変容したり、あるいは、より重要な検討対象が生まれたりした。このような問題に対しては、当該変容の過程で行われる議論や当該対象に関する外部での議論をも本研究の検討対象に取り込み、その適否を検討した上で独自の分析を進めた。 平成28年度は、当初の予定通り、本研究課題の最終年度であった。年度を通じて、本研究によって得られた成果をわが国に応用可能な形で具体化させる作業を行った。すなわち、競争の観点から抑止することを正当化する不公正概念の理論的基礎とは何か、を明らかにする解釈論を展開し、実践的に解決が要請されている個別的課題についての考え方を提示する論文等を執筆し、また、研究会等で積極的に成果の報告を行い、こうすることで、本研究課題として遂行してきた研究の客観的な位置づけをうるとともに、独善とならないよう十分に努め、今後の研究の方向性の適切さを担保するよう努めた。 今後も、引続き、市民向けの講演の機会を活用し、本研究の成果を、わかりやすくかつ広く社会に還元して参りたい。
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