研究課題/領域番号 |
26780037
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
伊永 大輔 広島修道大学, 法学部, 教授 (10610537)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 課徴金 / EU競争法 / 独占禁止法 |
研究実績の概要 |
本研究は、独占禁止法における課徴金制度の法的課題を統合的に整理するとともに、これらの課題に対する分析・検討を行うことにより、近年の独占禁止法改正後の課徴金制度に関する理論的基盤を再構築することを目的とする。課徴金制度を巡る法的課題は、独占禁止法の現代化に伴い新たに発生したものであり、単なる課徴金算定上の法的問題解決につながるばかりでなく、公正取引委員会や裁判所が実体規定の規範を定立する際の理論的基盤としても重要であるとの問題意識に立って取り組んできた。 このような観点から、本年度は学術論文5本の研究成果があった。中でも本研究の成果を端的に表すものとして先ず挙げられるのは、競争の法と政策を扱う専門誌『公正取引』における「課徴金制度の基本的考え方」と題する連載である。本連載は、平成26年度に発刊された連載第1回の誌面において科学研究費補助金による本研究の成果であることを明示して行っているものであり、本年度の成果として「第9回 当該商品・役務の売上額(3)」(公正取引786号)、「第10回 課徴金制度の在り方に関する論点整理」(公正取引794号)が既に公刊されている。 また、単著「国際カルテル事件における需要者概念と課徴金算定のあり方 ーブラウン管カルテル事件(サムスンSDIマレーシア)控訴審」ジュリスト1494号などの事例評釈も行う一方、単著「排他的リベートによる「市場支配的地位の濫用」の新展開 ーEU競争法における効果重視の分析アプローチをめぐる法理論」修道法学39巻2号、単著「大規模小売業告示から見る優越的地位濫用規制のあり方 ー優越ガイドライン及びトイザらス審決における不当な返品・減額の分析を踏まえて」『経済法の現代的意義 ー舟田正之先生古稀祝賀』(有斐閣)も科学研究費補助金による研究成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2016年3月から1年間(本年度のほぼ全期間に該当)、研究代表者の所属機関から在外研究派遣され、英国オックスフォード大学(University of Oxford, United Kingdom)の客員研究員として競争法政策センター長のA. Ezrachi教授のサポートを受け、最新情報が集積する現地においてEU競争法における制裁金制度の研究を行ってきた。 その充実した研究環境を活用しつつ、EU競争法に関する学会や国際シンポジウムに積極的に参加し、競争当局職員や競争法専門弁護士等にヒアリングするなど、地道に最新情報を収集しこれらを分析した結果、予想していた以上に課徴金制度に関する新たな事実や背景にある法的な考え方が判明しつつある。こうした事実や考え方それ自体が我が国の学術議論に好影響を及ぼす新規性ある研究成果といえるが、これらを日本法との比較対象として法的分析を行うことでより説得的な学術的視座を得るには、次年度(2017年度)に比較法制的観点から日本法の補完調査とさらなる分析を行う必要がありそうである。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」において述べた事情に基づき、本研究は計画を一部発展・修正し、2017年度まで1年間研究期間を延伸することとなっている。英国における1年間の研究内容を最大限に活用するためには、そこで得た情報が陳腐化することを避け、さらなる情報を分析し読み解くための前提条件として他の研究者といち早く共有すべきことを踏まえれば、可能な限り早く検討・分析を終えて研究成果を学会に還元することがまずは肝要と考えている。 そのためには、新たに判明した課徴金制度に関する新事実や背景にある法的な考え方を日本法との比較対象として法的分析を行うことができるように、日本法における追加調査を行う必要がある。具体的には、EU競争法における制裁金と我が国独占禁止法における課徴金とが同一方向で解釈されつつあるとの傾向を踏まえつつ、これらの金銭的制裁の持つ法的な性格について、立法経緯や解釈変遷を踏まえつつ、その相違点をはっきりとさせ、これを突き詰めて考えていく必要があり、これが今後の課題となる。 このような課題に対し、研究の鍵を握るのは、独占禁止法における課徴金が「不当な経済的利得の剥奪」を現代においても法的性格として有しており、課徴金制度を考える際の内在的制約として機能すべきであるかどうかである。学会でも意見が分かれているところであり、一定の結論を得るには精密かつ体系的な分析が要求されるところであるが、本研究を全うする上では、ある程度の道筋をつけることができれば比較分析を行うで十分と考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は、英国オックスフォード大学の客員研究員として本研究課題を比較法的視点から精力的に研究したが、現地派遣の利点を活かしてEU競争法に関する最新の研究結果が得られた一方、当初予想していた内容を超える成果であったため、派遣前に準備していた日本法研究だけでは学術的な比較分析を行う上で十分とはいえず、帰国後の補完調査が必要だと判明した。 こうしたEU競争法に関する最新の研究結果それ自体も重要であるが、これらを日本法との比較対象として法的分析を行うことでより説得的かつ活用しやすいかたちで学術的視座を提供するには、次年度(2017年度)に比較法制的観点から日本法の補完調査が必要となる。これらの調査にも一定の研究資金が不可欠であり、そのため次年度に必要額を残す工夫をしたことが、次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
主に、東京(公正取引委員会競争政策研究センター、東京経済法研究会、外国競争法事例研究会等)及び大阪(関西経済法研究会、独禁法事例研究会、実務競争法研究会等)に出張し、調査・報告・議論等を行うための旅費として使用することを計画している。課徴金の問題は学術的な側面のみならず、現実の問題に対応するという極めて実務的な側面も有する。そのため、研究会等で学者と問題意識を共有し議論を重ねるとともに、公正取引委員会職員や競争法専門弁護士といった実務家とも意見交換し、現実の問題にも目配せしながら理論的解決を示していけるよう、努力したい。
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