ドイツ刑法典等に規定されている条件付親告罪制度は,原則は被害者等の告訴がなければ刑事訴追できないが,例外として検察庁が「刑事訴追に対する特別な公益」があると認めると告訴がなくても刑事訴追できる制度である。本研究では,この「刑事訴追に対する特別な公益」概念を素材に,刑事司法において「公益」概念の果たす役割および犯罪被害者の権利の本質と限界を探ることを目的としている。 本研究課題の最終年度である平成29年度は,これまでに収集された資料等に基づいて全体的な理論・実務等を分析・整理し,論文等として公表することに力点を置いた。平成29年度中に執筆・公刊された研究成果の概要は下記とおりである。 1 オーストリア法の刑事訴追制度に調査対象を拡げ,同法における刑事訴追に対する公益の概念をドイツ法におけるそれとの比較を考慮して考察し,論説として,「オーストリアの刑事訴追制度についての予備的考察」を公表した。本論説では,著作権法における一部非親告罪化,条件付起訴猶予制度,オーストリアの親告罪制度を検討するための,オーストリアの刑事訴追制度についての予備的考察として,刑事訴追制度の大きな枠組み,職権主義・国家訴追主義とそれを修正する諸制度,起訴法定主義とそれを修正する諸制度を検討した。オーストリアに特徴的な制度として,検察官訴追と捜査が排除される「私人訴追犯罪」,裁判官の関与しない検察庁による「ダイヴァージョン」がある。 2 ドイツの条件付親告罪制度とドイツ語圏諸国における類似の制度を検討する中で,より広くそれぞれの国の刑事訴追制度における検察官の関与の在り方に関する検討を行う機会があり,本研究課題から見れば派生的な研究成果ではあるが,論説として,「検察官による訴追段階のダイバージョンにおける賦課・遵守事項と福祉的措置――ドイツ語圏4ヶ国との比較法的観点から」を公表した。
|