委託に基づいて債権の取立権を付与する「取立委任」は、対象債権について受託者が自己に対する給付を求めることができる実体的地位を付与するものであり、このような法事象の存在自体は比較的古くから認識されていたところである。もっとも、わが国の法体系の中においては、特定の場面において非債権者が債務者に対して自らに給付を請求することを実体法的に正当化するツールとしての役割以上の位置付けが明確に行われてきているわけではないため、手続法上の取扱いについても必ずしも明確ではない現状がある。このような状況の中で、近年の金融システムにおいて取立委任の存在感が次第に増してきていることから、本研究は、取立委任をすることが手続法上いかなる意義と機能を有するかについて、ドイツ法との比較考察によって明らかにしようとするものである。 過年度においては、ドイツにおける取立授権の概念形成史を遡って検討し、取立授権が定着した現在に至る過程においていかなる理論的な試みがなされてきたかを把握し、昨年度は、取立授権に関する近時の論考や裁判例を調査するとともに、ドイツで取立授権の典型事例とされている債権譲渡担保に関連する文献を調査することによって、取立授権の理論的な現状について調査した。今年度は、わが国において取立委任という法律構成がなされてきた事象に関する議論の歴史や理論的現状を明らかにするために、わが国の文献資料を調査することによって取立委任概念の外縁を明らかにしつつ、ドイツ法の検討によって得られた成果を基に、取立委任の手続法上の意義ないし機能(例えば、訴訟追行権との関係、承継執行文の付与との関係、請求異議の訴えにおける異議事由との関係など)を明らかにする作業を行った。以上の研究の成果に関しては、学術論文として公表する準備中であるほか、学会報告の形でも公表する予定である。
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