研究課題/領域番号 |
26780048
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 周平 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (10520306)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 純粋経済損失 / 純粋財産損害 / 金融商品取引法 / 流通市場における不実開示 / 有価証券報告書等の虚偽記載等 / ドイツ不法行為法 |
研究実績の概要 |
1 2014年度は,主にドイツ法の調査を行った。まず総論的な問題として,純粋財産損害の賠償が認められる事案類型とその際に利用される法技術について,概要を調査した。 2 各論的な問題としては,流通市場における不実開示によって投資者が損害を受けた場合の問題(わが国の金商法の用語でいえば,有価証券報告書等の虚偽記載等に関する問題)を検討した。ドイツでは,2000年代におけるITバブルの崩壊とともにこの問題が顕在化し,連邦通常裁判所の判例を中心に活発な議論が行われている。この問題については,おおむね次のことを明らかにした。 (1) ドイツでは,日本と異なり,発行会社よりもむしろ,不実開示を主導した取締役等の個人責任が重視されている。これは,発行会社が倒産したり,無資力であったりすることによるものと言われている。 (2) ドイツでは,役員の個人責任を認める規定が有価証券取引法に存在しないため,民法の規定(ドイツ民法826条)による責任追及が試みられている。その際,同条は故意の良俗違反という,一見厳格な要件を採用しているが,不実開示の事案の特徴に応じて一定程度の緩和がなされており,この点に純粋経済損失の賠償の拡大傾向を見て取ることも可能である。 (3) 投資者がいかなる損害の賠償を受けられるかについては,ドイツ民法249条や251条の規定を手がかりに議論が行われている。そこでは,これらの規定に対応して,原状回復か高値取得損害の賠償かが争われていたが,最近では,規範の保護目的論を手がかりとして,投資者がいかなるリスクを引き受けたのかという観点から,賠償範囲を確定しようとする見解も現れている。この点で,出発点は異なるが,日本における議論との対応関係が見られる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度には,純粋財産損害の問題についてドイツ法の現況を調査し,その概要を把握することができた。また,各論的問題として,流通市場における不実開示の問題について,判例・学説を調査した。以上の問題については,研究報告の形で中間まとめを行っているし,不実開示の問題については,2015年度の秋頃には論文にまとめることが可能である。 以上の理由から,「おおむね順調に進展している」ものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は,流通市場における不実開示の問題について,追加的な調査・検討を行ったうえで,ドイツ法の議論の紹介・分析を行う論文を取りまとめる予定である。 他方で,不実開示の問題は,純粋財産損害の問題の典型例とはいいにくい側面があるため,不法行為法による財産保護がどのような論拠により,どのような法技術を通じて実現されているかという観点から,改めてドイツ法の分析を行いたい。その際には,ドイツ法における個々の法技術(営業権侵害,故意の良俗違反,契約責任の拡張など)および純粋財産損害の賠償を認める(または認めない)実質的根拠と,事案との対応関係に留意しながら検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
流通市場における不実開示の問題をドイツ法の素材として検討した結果,投資取引についてドイツの投資家がどのような意識を持っているか,それは日本の投資家と異なるかといったことが,法的問題にも少なからず影響を及ぼしていることが推測されるが,これを詳しく知るためには,現地での聞き取り調査が不可欠である。 そして,そのためには,不実開示の問題のみならず,ドイツの証券市場に関連する諸制度をより広く調査し,関連する事情を詳しく把握しておく必要がある。そのため,当初2014年度に予定していたドイツでの調査を次年度に延期し,旅費等に使用する予定であった額を繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
2014年度に生じた残額は,聞き取り調査のためのドイツ出張旅費に使用するほか,ドイツにおける証券取引に関連する諸制度を検討するための補充的な資料収集に使用する。
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