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2014 年度 実施状況報告書

取締役の労働者に対する責任論―会社の労働法令遵守への規律付け

研究課題

研究課題/領域番号 26780050
研究機関小樽商科大学

研究代表者

南 健悟  小樽商科大学, 商学部, 准教授 (70556844)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2017-03-31
キーワード使用者概念 / 間接有限責任と未払賃金債権 / 法令遵守 / コンプライアンス / コーポレートガバナンスと労働者
研究実績の概要

会社の労働法令違反行為に対して当該会社の取締役がどこまで法的な責任を労働者に対して負うべきか、ということが本研究課題であるが、今年度は、会社の労働法令違反のうち賃金未払について取締役が労働者に対して責任を負うべきか否かという観点で研究を行った。
現在、日本において取締役の対第三者責任規定(会社法429条1項)に基づき、取締役等に対して未払賃金分の損害賠償を求める事案が散見されているが、同様の状況がアメリカでも発生していることが明らかになった。そこで、第一に、アメリカにおける訴訟において会社の賃金債務について労働者に対して取締役が責任を負うべき根拠として挙げられているのが、アメリカにおける労働法令(州法及び連邦法)の「使用者」の定義規定であることを明らかにした。すなわち、会社が倒産時又は倒産間近において会社の資力が充分ではないときに、「使用者」概念を拡張し、未払賃金を経営者(役員や取締役)に対して請求している事案が散見されている。これらの事案においては、現時点では、州法や連邦法において、それぞれ肯定する事案と否定する事案が混在しているが、この問題を考える契機となっている。
他方、本研究計画作成時において明示していなかったが、カナダの一部州会社法及び連邦会社法において、直接、労働者が取締役に対して未払賃金の一部を請求しうる規定があることがわかった。カナダにおいては、間接有限責任の例外として、取締役に対して未払賃金を直接請求しうる規定が用意され、アメリカ法におけるものと同様もしくはそれ以上の議論がなされていることがわかった。そこで、今後の研究においては、研究計画に従いアメリカ法における議論だけではなく、カナダ法における議論も踏まえて、研究を進めたい。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究計画に従い、今年度はアメリカ法における取締役の労働者に対する責任論について研究を行った。そこでは、現在、州裁判所及び連邦裁判所におけるアメリカにおける労働法令の解釈において取締役の労働者に対する責任について、肯定例・否定例いずれも存在し、それに対して、株式会社の間接有限責任制限との関係で議論が一定程度存在することを確認した。他方、研究計画にはなかったカナダの州会社法及び連邦会社法において、取締役が未払賃金の一部について労働者に支払う義務が法定されていることも明らかになり、そこでの検討が、アメリカ法における議論がカナダ法における議論により相対化され、複眼的な見地から、どこまで取締役が労働者に対して責任を負うべきか、という研究もできるようになった。

今後の研究の推進方策

研究計画に従い、2年目においては、1年目で明らかになったアメリカ法における議論の背景にどのようなものがあるのかを明らかにする。すなわち、議論の背景として、未払賃金債権と株式会社の間接有限責任との関係が1年目である程度明らかになったが、今後は、その背景を踏まえての研究を行う。株式会社は間接有限責任であることから、従来、不法行為債権者と契約債権者とに区別した上で、契約債権者については、ある程度、加害会社のデフォルトに対する自衛手段が存在しうるが、他方で、不法行為債権者に対しては自衛手段が存在しないことから不法行為債権者に対する保護というのが間接有限責任との関係から論じられてきた。しかしながら、消費者や労働者といった、確かに、概念としては契約債権者に含まれる存在ではあるものの、しかし、交渉力を有する取引債権者と異なり、交渉力に格差があったり、また契約関係を終了し、他社への移動が、やや困難である。特に、日本のような労働市場が一般に流動化されていない場合には、なおさらである。他方で、一般に、労働市場が流動化されていると言われているアメリカにおいてでさえ、労働者に対する未払賃金が発生しているような状況で、取締役が責任を負わされる可能性がある、ということからすると、なおさら日本法において責任を負わせるべきという議論が出ても当然といえる。そこで、今後は、日米における労働市場の違いも踏まえつつ、株式会社の間接有限責任と労働債権の保護について研究する。
加えて、今年度の研究実績でも触れたが、カナダ法においては、取締役の未払賃金債務の負担に関する明文の規定が存在しており、近時、カナダにおける会社法改正の議論でも、この点がクローズアップされていることが明らかになったことから、カナダ法も参照しながら研究を進めていく。

次年度使用額が生じた理由

5000円あまりの次年度使用額が発生した理由として、年度末における駆け込み支出をせず、計画的に使用し、かつ次年度において下記計画の通り図書購入費用等に充当する計画を立てたため。

次年度使用額の使用計画

5000円あまりの次年度使用額については、図書購入費用等に充当する予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2014 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うちオープンアクセス 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] 取締役会決議を欠く「重要な財産」の譲受けの効力2014

    • 著者名/発表者名
      南 健悟
    • 雑誌名

      金融・商事判例

      巻: 1442 ページ: 2-7

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 違法解雇と代表取締役の責任―I式国語教育研究所代表取締役事件2014

    • 著者名/発表者名
      南 健悟
    • 雑誌名

      季刊労働法

      巻: 246 ページ: 274-275

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 代表取締役の労働者性2014

    • 著者名/発表者名
      南 健悟
    • 雑誌名

      新・判例解説Watch

      巻: 15 ページ: 283-286

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 民事判例研究:福岡魚市場株主代表訴訟上告審判決2014

    • 著者名/発表者名
      南 健悟
    • 雑誌名

      北大法学論集

      巻: 65(4) ページ: 136-114

  • [図書] 企業法の現在2014

    • 著者名/発表者名
      出口正義、吉本健一、中島弘雅、田邊宏康、福田弥夫、松久三四彦、藤原正則、多木誠一郎、淺木慎一、南健悟、道野真弘、潘阿憲、近藤光男、木俣由美、野田博、松岡啓祐、伊藤雄司、吉井敦子、宍戸善一、江頭憲治郎ほか
    • 総ページ数
      670(171-195)
    • 出版者
      信山社
  • [備考] 小樽商科大学学術成果コレクションBarrel(南 健悟)

    • URL

      http://barrel.ih.otaru-uc.ac.jp/researcher?action=viewResearcherPage&researcherId=117

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公開日: 2016-06-01  

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