研究課題/領域番号 |
26780051
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
永下 泰之 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (20543515)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 民法 / 不法行為法 / 事理弁識能力 / 意思決定 / 法の経済分析 |
研究実績の概要 |
わが国の過失相殺制度は、被害者の「過失」につき、事理弁識能力を要するとされている(判例・通説)。本研究は、この事理弁識能力の要否につき、不法行為前後の被害者の意思決定に着目して、再検討を試みるものでああり、ひいては今日における過失責任主義のあり方を模索するものである。 平成27年度は、主にアメリカ法、特に法の経済分析の観点から意思決定問題に関する検討を行った。ここからの示唆は、意思決定をさせる「インセンティブ」の設定という点が重要になるということである。どのような法制度設計で「合理的な」意思決定を誘導するか。意思決定問題については、近時の人の「限定合理性」が新たな視角を提供する。民法上、意思決定主体は「合理人」が想定されているが、近時の心理学的知見によれば、我々は様々な要因により「合理的」に意思決定できないことが判明している。これが「限定合理性」の問題である。これを法理論にどう織り込んでいくべきか。本研究の課題と密接に関連する問題であり、さらなる検討を予定している。仮説として、被害者の人物像を「完全に合理的に判断することはできない」者だとして、過失=注意義務の水準を措定できるのではないかと考えている。 「限定合理性」問題は、「人の弱さ」でもある。「人の弱さ」が顕在化したのが、「東芝(うつ病・解雇)事件」(最判平成26年3月24日)と解することもできる。この問題関心から、同判決及び「電通事件」(最判平成12年3月24日)を取り上げ、考察を行った。その成果は、「東芝(うつ病・解雇)事件」の判例評釈(民商法雑誌)として公表した他、別途論考を公表する予定である。 なお、平成27年度には、法の経済分析における意思決定問題につき、アメリカ(シアトル)に訪れ、Calandrillo教授(ワシントン大学教授)にインタビュー及び意見交換を行った。この成果も、前述の未公刊論考に反映されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究は、交付申請書記載の研究計画に従い、順調に遂行されている。アメリカ法(法の経済分析)については、必要な文献を収集することができ、また、アメリカにおける法の経済分析を専攻する研究者(Calandrillo教授@ワシントン大学)と意見交換することができた。そして、その成果は、これから公表される予定である論考に織り込んでおり、かつ、別途論考を公表することも予定している。
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今後の研究の推進方策 |
今後としては、現在執筆中である、アメリカ法の状況を踏まえた論考を公表する予定である。 また、平成28年度には、これまでに考察してきた、日本法・ドイツ法・アメリカ法を複合的に検討し、被害者の「意思決定」問題につき、一つの提言を行う予定である。 以上の通り、平成28年度は、もっぱら分析と考察をさらに深めることを目的に研究を遂行し、順次、研究会等にて報告する予定である。また、その成果も順次公表する予定である。そのための状況は整っているといえる。
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