本研究は、福島第一原発事故に伴う放射性物質の拡散、低線量被ばくという人格権侵害が起きている福島の現状において、民事執行法の観点から救済手段の整序を行い、新規定である民執173条の解釈を鍵として、復興に向けた迅速な放射線量低減のため間接強制と代替執行の弾力的運用(同時並行)についての理論的根拠を示すことを目的とした。その際、母法国であるドイツ法と同じ法圏に属する韓国法の理論状況を比較法の対象とした。 あわせて、本研究においては、著名な時事問題となっている諫早湾土地改良事業の開門・開門禁止というふたつの相反する司法判断に基づく間接強制の適否について、検討を加えた。同問題については、相反する司法判断を間接強制の阻害事由とする見解が、学説上、多く唱えられているなか、私は、民事手続法の観点から、間接強制は、要件を備えていれば認容されるべきであり、反対に、阻害事由としての利益衡量論は、相反する義務を作出することで、間接強制「破り」につながるおそれが高く、債権の実効性確保の観点から、問題がある旨、指摘した上で、綿密な理論構築を行った。その理論構成としては、ドイツ民事執行法の実務および理論とあわせて韓国法からのアプローチを試みた。 本研究全体によって、先行して実施したADR、法テラス等の実態調査から得た非金銭執行としての差止めの必要性と許容性に基づき原子力災害事例における人格権保護のため間接強制を中心とした迅速な執行法スキームを示すことができた。
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