前年度に米国英国ともにペイデーローンによる消費者被害を一因として市場改革が行なわれたことが明らかになったことを踏まえ、米国の市場改革の成果である、金融消費者保護局(CFPB)の法構想について調査研究を進めた。 米国金融消費者保護局の設置構想には、エリザベス・ウォーレンとオレン・バーギルの両氏による提言が大きな影響を与えていることが伺える。このことから、両氏の主張を検討したところ、両氏の明らかにした消費者信用市場の失敗とそれに対応できない既存の規制方法の限界については、我が国の消費者信用市場およびそれを取り巻く民法・消費者法の諸法理にも妥当することが分かった。 まず、消費者信用市場の失敗について、(1)信用商品は複雑であるため商品間の比較が困難でありその労力の大きさ故に消費者の学習が行なわれにくいこと、(2)信用商品は容易に業者により改変が可能であるため、絶えず情報収集活動を行なわねばならず、このため第三者による情報提供の有用性が限定的なものになること、(3)信用商品は複雑な商品であるため売主が自社商品の優位性を消費者に教育(情報提供)することで競争的地位を改善しようとするインセンティブを持ちにくいことから、情報の非対称性と消費者の限定合理性は是正されないままとなる。さらに、売主は消費者の信用リスク情報を収集することによって得られる消費者の行動予測を利用し、認知バイアスを有した一定数の消費者につけこむような信用商品を巧みに設計することにより、収益をあげるという構造がある。 このような状況に対し、既存の法制度は市場構造に対する理解や分析を踏まえた理論を持たず、また信用商品によって発生する損害は蓋然性は高いが個別の被害は小さなものであるため、訴訟という事後的な紛争解決方法は費用に見合うものではないという問題もあり、事前の規制手段の構築が喫緊の課題である。
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