研究課題/領域番号 |
26780056
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
高 秀成 金沢大学, 法学系, 准教授 (50598711)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ケベック / 混合法 / 財産管理 / 比較法 / グローバル化 / 所有権の絶対性 / 権限 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、当初、平成28年度に予定されていた「他人の財産の管理」制度の基礎理論的側面の研究を遂行した。 まず、第一に混合法圏であるケベック州の民法の特色をあぶり出すべく、法継受の伝統のある各国法がグローバル化のなかでいかなる変容を遂げているかを検討した。とりわけ、大陸法伝統に属するフランス法の近年の担保立法と、ケベック法ほかイタリア法、ドイツ法などの担保技術の進展を検討するとともに、韓国契約法がグローバル化のなかでいかなる変容を遂げたかを調査した。これによりケベック法が、「他人の財産の管理」制度を構築するなかで、大陸法伝統および英米法の混淆のなか、いずれの法系にも属さない独自の立法対応を行った箇所の綿密な検討が必要であるという課題が浮かび上がった。 第二に、「他人の財産の管理人」が行使する権限との対置されるべき権能として所有権が存するが、この所有権の特質を十分に把握する必要があった。平成27年度は、近年、重厚な体系書を著述したウィリアム・ドロスの所有権論を詳細に検討した。これにより所有権の絶対性が有する意味合いを思想的・技術的側面から明らかにするとともに、所有権に含まれる諸要素がいかに分割されるか、所有権者がその権能行使にあたり他人の利益をいかなる範囲で勘案すべきか、近時の学説をもとに検証した。以上の検討により、所有権をいかなるものとして構想するかによって、受託者をはじめとした「他人の財産の管理人」の行使する権限と相対化されることが明らかになった。 第三に、「他人の財産の管理人」の性質決定のあり方に示唆を得るべく、我が国民事判例の性質決定論の到達点を確認した。 以上から、今後「他人の財産の管理」制度の研究にあたり、ケベックで前提とされていた所有権観や基礎理論と照応させながら、その特質を慎重にあぶりだしていくことが必要であることが課題として浮かび上がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画において平成27年度はケベックでの在外研究が予定されていたが、フランスのウィリアム・ドロス教授の来日を機に、平成28年度の基礎理論研究を前倒しすることが有益と思われたので、次年度に持ち越した。そして、平成27年度においては、来日したウィリアム・ドロス教授の講演通訳を行い、インタヴューを行うことで、次年度の研究を前倒しして遂行することができた。このほか、グローバル化において法継受を行った各国がいかなる対応に迫られているかの研究から、混合法であるケベック法研究に新たな視点を得ることができた。加えて、「他人の財産の管理人」の法性決定論の基礎作業として、我が国民事判例の法性決定論を分析し、香川大学において講演した。なお、国内にてケベック法の文献収集を継続しているところ、ケベック物権法に関する概説書や、物権法関連の論文をメインとした記念論文集など貴重な文献を入手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はケベック民法典「他人の財産の管理」研究の総括を行うこととなる。それにあたり、これまでの国内調査および基礎理論をまとめあげるとともに、国内調査において欠落が残った部分についてケベックでの在外調査およびインタヴューを通じて補うこととする。なお、これまで予定していた以上に、(ケベック民法の立法資料をはじめとして)国内での文献収集が順調に進んだため、万が一、ケベックの在外調査に障害が生じた場合であっても、在ケベックの財産管理を専門とする教授へのメール等を通じて欠落を補完し、十分に研究を完遂できる見通しも立っている。 以上の調査を経て、最終的にケベック民法典「他人の財産の管理」について立法経緯、制度概要、基礎理論的側面を踏まえた研究をまとめあげることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度にはケベックでの在外調査が予定されていたところ、①平成28年度予定の研究内容が前倒しして遂行されたこと、②平成27年度内に確保しておくべきケベック法関連文献、フランス法関連文献があったため、③平成28年度に国内研究者の協力が得られる見込みが立ったことから、平成28年度のケベック渡航費として確保しておく必要が生じたため、次年度使用額として確保しておいたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額はケベック在外調査のための渡航費に用いる予定である。また、万が一、ケベック在外調査に障害が生じた場合であっても、必要文献の入手のため残余は生じない予定である。国内でのケベック民法およびフランス法の基礎理論関連資料が当初予定以上に多数にのぼるほか、非常に高額であるため、まだ必要文献において、入手できていないものがある。
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